大好きな先生のやさしいウソ

母親は料理する手を一切止めずに、「そんなん、アカンに決まっているやろ」と僕の方を振り向きもせずに言った。

「リトルリーグって野球のことやで」とリトルリーグの意味を母親が知らないんだと思い説明をした。

でも母は、「アカンものはアカン」とだけ言った。僕は、母が料理の準備中で忙しくて、機嫌が悪くて反対しているだけだと思った。そこで、お風呂から出てからもう一度聞いてみた。

「お母さん、僕野球がしたいんよ」

でも、洗濯物をタンスにしまいながら、「アカンって言っているでしょ」と今度は強い口調で言った。

「なんで! なんで! なんで、アカンの!」と僕も食い下がったが、母は何も言ってくれず、用事を忙しそうにしていた。

翌日学校に行くと、仲のよかった友達が、

「俺、リトルリーグに入ってもいいって、お母さんが言ってくれた。たなやん(当時の僕のあだ名)も一緒にやろうや」と誘ってくれた。誘ってくれたのはうれしかったが、彼が羨ましかった。

家に帰って母に、お願いをした。何度も、何度もお願いをした。でも、母は首を縦には振ってくれなかった。僕は小学2年生の脳みそをフル回転させて、

「苦手な算数も頑張るし、九九も完璧に言えるようになる。それに、大嫌いなブロッコリーも食べるから、野球させて」とお願いというよりも叫びに近かったと思う。