家裁調停

トシカツの思いは一つ。享子とヨリを戻したい、何もなかったように、またみんなで家族をしたい。しかし運命か? バイオリズムか? 大殺界か? トシカツのやること為すこと、ことごとく裏目に出る。浮気調査とか住町襲撃とか、家裁申請も、逆に享子を怖がらせ怒らせ、嫌われる結果となっているのだ。

しかし、トシカツは享子に嫌われていることに何にも気が付いてないのである。男の脳みそがめでたくできているのか、トシカツが特におめでたくできているのか、享子が戻ってくると何の根拠もなく信じている。見ていても可哀想になるくらいに。

そんなトシカツとは逆に、享子の心はトシカツから完全に離れている。それどころか恨みに変わっている。全面戦争の構えだ。全集中、水の呼吸壱の型である。それでもおめでたいトシカツは信じている。アイ・ビリーブなのだ。

双方そんな有り様だから全く違う心構えである。調停前から、もうお互いの優劣、立ち位置、勝ち負けは決まっていたのだろうね。それでも細い蜘蛛の糸にぶら下がるかのように、トシカツは信じていたのだろうね。さてそのトシカツの思いは通じるのか? 運命の波は二人を乗せ家庭裁判所調停へと流れていく。

トシカツは警察に事情聴取を受ける1週間くらい前に、ネットを見たりいろいろ考えたりしていた。トシカツには初めての経験だし、自分の奥さんが浮気をしていることなんて恥ずかしくて誰にも言えないし、そんなディープな話、相談された方も困るだろうね。なんて考えるトシカツは、やっぱり馬鹿だ。親にも、兄弟にも、中学からの親友にさえ相談できない。

トシカツは一人だけの孤独な戦いになった。

仕事の合間を見計らっては家裁に行き、いろいろ相談して、教えてもらった。身になることは貪欲に聞いた。書類の書き方出し方、内容証明郵便とか初めて聞いた言葉だ。その中でも離婚調停を仕掛けるのが、一番だと思った。成り行き結婚だから仲人もいない。

だからトシカツはとりあえず、第三者に入ってもらって話し合いがしたかった。第三者を挟んで享子と、面と向かって会話したかった。腹を割って話し合えば解決に近づくと信じていた。そう考えるとトシカツは何だか光が見えてくる気がしてきた。

話を戻すと、この申請があったからこそ、トシカツは警察から攻撃されても逮捕まで至らなかったのだから、皮肉な話である。