幸せの絶頂

2015年2月、その男は幸せの絶頂にいた。小川俊勝、53歳。身長175センチメートル、体重88キロ。子供4人に恵まれ、綺麗なお嫁さんと結婚生活25周年、銀婚式を迎えた。その日、前から計画していた銀婚式パーティーを開いた。お嫁さんの両親そして義理の姉とその子供の総勢10名。

トシカツはあまり稼ぎがいい方ではないけど、仕事も20年続けて働いてきた。それでも何とか郊外に家を建て、小さいけれど一国一城の主である。銀婚式のパーティーも、できれば名の知れたホテルのディナーパーティーといきたいところだが、残念なことにチープなトシカツには全国チェーン店の和風ファミレスでの催しとなるくらいだ。まぁ身の丈といえばそうなのだが。

それでも、みんなの笑顔と楽しい会話と美味しい料理で時を過ごす。期してこの日は午前中に、念願のトヨタの新車アクアの納車日でもあったし、それに伴って初めてのスマホデビューの日でもあった、トシカツは目も口も頬も緩みっぱなし。

「みなさん、ありがとう、こんな幸せな日はありません。あまりにも幸せすぎて、今日がオレの人生の最高のピークかもしれない。後は落ちていくだけだったりして、なんてね」など、浮かれて冗談まで言っている。まるでこれから起きるジェットコースター的な地獄道を暗示するがごとくの予言であった。

トシカツのお嫁さん、小川享子47歳。身長160センチメートル、体重は自称で48キロ。スレンダーな美人である。とても4人の子供の母親には見えないし思えない人である。