庭師と四人の女たち

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その男は色の浅黒い、三十代半ば程の人物で、いささか日本人離れした容貌をしていた。

髪の毛にはやや癖があり、黒いTシャツにジーンズといういで立ちで、どことなく一般的な植木職人風情には見えない唐突な印象だった。顎から頬にかけて、薄い髭があり、深く沈んだ目をしていた。

「何だか、外人みたいな人ですね」と声を低めて彩香。

「そうね。アングロサクソン系じゃなくて、ラテン系? あるいはアラブの血の少し入ったギリシャ人とか」

妙に饒舌になった耀子は、品定めするように言った。

「そういえば、この間、テレビでやってたけど、北アフリカの岩山の頂上に隠遁生活している古いキリスト教の修道僧がいるじゃない。ああいう翳りも、ちょっとあるわね」

さらに覗き込むようにして、

「それとも、そうねえ。スペインのジプシーかしら。ロマって言ったっけ?」と加えた。

「ちょっとアべベに似てるね。東京オリンピックのときの」つられたマス江は、眉間に皺を寄せた。

「なんですか、それ。知らなァい」と彩香。

「アベベっていうのは、裸足の哲人とかいわれたマラソン選手さ。あんた、東京オリンピックのビデオとか、見たことないのかねえ……」

眉間に皺を寄せて、マス江が侮蔑的に言った。

「それって、いつの時代? いまの子が、知るわけないじゃないですか」

耀子は笑ってから、冷たくそっぽを向いて、

「あったりまえだろ。あたしだって、テレビで見ただけで、知らないんだから」と小さくつぶやいた。

どうせ耳が遠いのだから、聞こえやしない。このおばはん、時間の観念が大幅に狂っている。

そこで耀子は少し、反論してやった。

「まあ、顔だけでいえば、アベベなんかよりも、ずっといい男かもね。あ、目のとこだけ、ちょっと、セナにも似てるか。F1レーサーのアイルトン・セナから甘さをとって、渋くした感じ。ジプシーの色男、怪傑ゾロ、アラブの美男テロリスト」

耀子はさらに饒舌につけ加えた。

「さすが、モデルのオーディションもやっているキャリアウーマン様は、違うわよねえ」

店主の睦子は、鷹揚に笑った。

「と言うよりか……。ほら、いま赤坂のシアターで、ニューバージョンの『嵐が丘』やってるじゃない。地下鉄にも駅貼りポスター出して。最近売れてるタレントの、何とか言う子使ってるわね。もし、あたしに演出させてくれるなら、彼にヒースクリフとか演じさせたいわね。あの古典中の古典を、現代風にアレンジして」

他の女たちは、また耀子の悪いクセが始まったというような顔で、目配せした。

好みは別として、この色浅黒い庭師は、女たちに何かしら強い印象を与えたようであった。しかもそれぞれが勝手に思い描いた別々の像のようなのであった。

店主は簡単なやりとりの後、庭師がコーヒーを飲み終えたのを見計らって、常連客に紹介した。

「そうそう。……こちらの皆さんは、ウチのお客さん。この近所の人たちなんですよ。こちらは平田造園さんの庭師の日置さんよ」

庭師は立ち上がって微笑を浮かべ、大きく頭を下げた。離れた席の三人も、おずおずと頭を下げた。