ユーは小さいときから眼鏡をしていて、たくさん本を読んでいるようだった。何より、僕やマコト、カホが知らないことをたくさん知っている。僕たちはユーがいつも何か話し始めると黙って聞いていた。といったって話を真面目に聞いていたわけではない。

話し始めると、ともかく終わらないのだ。しばらく話すと、きまって最後に眼鏡に手をやり、フレームを少しあげる仕草をする。その仕草を見て、ようやくユーの話が終わったのだとみんな思い、みんなが話し始めるのだ。

最後に眼鏡をちょっとさわってあげる仕草をみて、僕たちは「ユーは天才だ」とからかった。僕たちはくすくす笑いながら、ユーの話の最後の眼鏡をあげるタイミングを見て、それを言った。本人は、もちろん本当にみんながそう思って言っているのでないことを知ってはいるが、いつも気持ちよさそうにしていた。

時々、嬉しくなると、きゃっ、きゃっ、きゃっと甲高い声で笑うのが、癖だった。単純なやつだったけれども、本が大好きなのは間違いがなかった。なぜこんなに本が好きなのに、塾に行かなかったのか、いまだにそれは分からない。

カホは……カホの家はお父さんがいなかった。その理由も聞いたことはなかったし、僕らの間では何も大事なことではなかった。

カホはとにかくお母さんを手伝っていた。夕方から混み合う店に出ては、大きなオトナの間をコップを持って行ったり、温かいお好み焼きを持っていったりしていたものだ。お母さんが食べ物をつくったりしていたので、忙しいとどうしても手伝わされていた。