1 さて、お別れに、何を残そうか……

(1)どうやら人生は一回きりらしい

イスラム教では、……。さすがに、イスラム教のことはほとんど分からないので、諸方面をちょっと調べてみると、「宗教法人日本ムスリム協会」のホームページに当たった。

これによると、重要な六つの信仰箇条のひとつに、来世を信じること、と明記してある。ここでの来世は、「仏教で言うところの生まれかわっていく来世ではなく、最後の日がきて、死者がよみがえり、最後の審判を受けた後に行く天国または地獄のことです。」とある。来世の定義は、キリスト教とほとんど同じである。

こうしておさらいをしてみると、次の人生、いわゆる来世を信じることは、多くの宗教の基本的な教えになっている。しかし宗教は、今困っていること悩んでいることから人々を救ってはくれないようである。

次が良くなるように今を精進しなさい、功徳を積みなさい、頑張んなさいと言っているだけである。さらにその底流では、今を良くすることは諦めなさいと諭しているようにも思える。

宗教に造詣の深い方、あるいは信仰している方からは、何と浅く身勝手な解釈かと叱責を頂きそうであるが、浅学非才の適当な理解であることには間違いがないので、ご寛恕を頂きたい。

また、本書は、皆さんの死に際のことを話題にしているが、あくまで趣味の本であって、間違っても宗教書ではない。

しかし、あらためて考えるまでもなく、宗教が来世に希望を繫いでくれても、あなたが今生きている人生は、あなたが死んだら終わる。宗教的に言うと、あなたの霊魂を宿している肉体が滅びる。私もまだ死んだことがないので、霊魂と肉体の関係が良く分からない。

両者は一体不可分で肉体の滅びは霊魂の消滅を意味するのか、容易に分離できて肉体が滅ぶとき霊魂は単独幽離するのか、そのどちらが正解であっても、不細工な肉体と悟りきれない霊魂を持つ身としては、現在の組み合わせで六十余年過ごさせてもらっているので、このセットの片方の肉体が滅ぶときをもって、人生の終了としたい。

一回きりの人生を一応終了した後は、ʻあの世ʼが待っているらしいので、それはそれでひとつの楽しみでもある。