黒毛和牛のハナ

散歩

朝と晩に、使用人の吉田さんがエサをあげます。草や稲わらを切る大きな押切(おしぎり)機をエサ箱の上に置いて、草や稲わらを挟んで力強くハンドルを押すと細かく切れてエサ箱に落ちます。吉田さんが純二に言いました。

「押切(おしきり)の刃はよく切れますからね。手を出したら、手が切れて吹っ飛びますよ」

と注意しました。エサ箱は大きいので、吉田さんはたくさんの稲わらを切らないといけません。額に汗をいっぱいかいて息も切れています。

稲わらと草を切ったエサの上に、穀物の煮物を茶碗で何杯もかけて混ぜました。あまり美味しそうではではないのに、ハナはよく食べてくれます。時々、栄養剤を混ぜてカルシウムやその他のミネラルを与えていました。ハナは吉田さんの言うことをよく聞きます。エサを食べる前に、吉田さんが、

「回って」

と言いながら腕を回すと、ハナは狭い馬屋(まや)の中でグルッと360度回って、大きな目で吉田さんを見ました。吉田さんが許可するまで、決してエサを食べないのです。

「よし」

と吉田さんが低い声で掛け声をかけると、待ちかねたようにエサ箱に早足で向かっていきました。

吉田さんは、純二を見てにっこり笑いました。純二が、

「吉田さんの言うことをよく聞くね」と言うと、

「ハナは賢いけんね」

と得意そうにうなずきました。