翌日の午後になっても連絡すらなく、時が止まったような室内には寒さも空腹も存在しなかった。意を決して携帯電話を手に取ると、両手が小刻みに震え始めた。祈るような気持ちで発信ボタンを押す。電話はすぐに繋がった。

「遅かったな。もっと早くかけてくると思った」

拍子抜けするほどさっぱりとした、冬輝の声。ただでさえ捩(ね)じ切れそうな胸が、さらにきつく絞られていく。

「できれば信じたかったけど、やっぱり無理だ。もう爽香とは会わない」

意味がわからず呆然としていると、電話の向こうで聞こえよがしな溜め息が漏れた。

「まさか白を切り通すつもり? だったら僕から訊く。日々膨れていく、その図々しい腹。そいつの中身は一体何だ」

「何だ、って……?」

「そいつの父親は、よっぽど魅力的なんだろうな。いや、僕を越えるだけでいいんだ。案外、平凡な奴かもしれない」

錆びた歯車が軋むような声に、総毛立たずにはいられない。

「どうしてそんなひどいことを……」

「とぼけなくていい。僕は一年も我慢したんだ。いい加減に本性を現せ」

「我慢? 本性? ちょっと待って。私たちお互い忙しかったけど、今までずっと幸せだったじゃない」

耳元で高笑いが弾けて、頭の芯にきんと響く。

「爽香は裏切られたんだ。いや、心底愛されたと言うべきか」

「──どういうこと?」

「そうか。自分から話してくれれば、まだ救いはあったんだけど」

冬輝はひどく事務的な口調で続けた。

「妊娠するまでパブで働いていただろう。そこの客と名乗る奴が、たびたびメッセージを送ってくるんだ。僕の連絡先を調べるために爽香の携帯を拝借したらしいけど、そんなことも気づかなかった? いや、黙認したか、それとも爽香が面白がって教えたのか……」

彼の指摘は突拍子もなく、まるで他人のことを話しているようだった。ホステスのアルバイト中、携帯電話は更衣室の鍵つきロッカーの中だ。客に携帯を見せたこともなければ、店に持ち込んだこともない。

「そいつは爽香がアルバイトに出ている間、よく実況のメッセージを送ってくれたよ。そういえば、今日は店の外で会う予定だ、なんてご丁寧な報告もあったな」

「そんなことするわけないじゃない!」