1

お父さんの手紙

何のためにここにあるのかわからない、空き地のすみにある石のブロックに腰を下ろして、僕は、はぁと大きなため息をついた。この頃はいつもこうやってぼんやりと時間を過ごしてから家に帰ることが多かった。

『なにか、こまったり、なやんだりしたときには、お父さんにはなしてください』

その時不意に、僕はお父さんからもらった手紙の言葉を思い出した。

『だれにもひみつにして』

『いつでもまことの味方です』

次から次に、忘れていた手紙の言葉が僕の頭の中にシャボン玉のように浮かんでは、消えていった。

僕はランドセルから筆記用具を出し、学習ノートを広げた。便せんを持ってきていないので、ノートを便せん代わりにした。

 

お父さんへ

お父さん、お仕事がんばっていますか。

ぼくは今、学校で、リコーダーのれん習をしています。ぼくは8はんです。8はんはいちばんに「かっこう」の合かくをもらいました。そのあとのかだいの「カノン」と「ぶんぶんぶん」も合かくしました。今「ウィーンのおどり」をれん習しています。でもとてもむずかしくて、なかなかうまくふけません。

ぼくのクラスには、だいちゃんという男の子がいます。だいちゃんは、とても体が大きくて、力がつよい子です。すごくいじわるで、ぼくらのはんが先生に発表するとき、ぼくがリコーダーでまちがえると、わざとわらいます。ほかの子たちも、そのまねをするので、ぼくは、前みたいに、上手にふけなくなってしまったような気がします。みんなの前に出ると、きんちょうします。

この前、体いくの時間に50メートル走のタイムを計りました。いっしょうけんめい走ったのに、あとからだいちゃんは、「フライングするな」と、ぼくにもんくをいってきました。「そんなことしてない」とぼくがいいかえしたら、たかはしくんや、今井くんが、「そうだ、フライングするな」とだいちゃんの味方をして、ぼくをせめてきました。

ぼくは、そんなずるなんてしなかったのに、ちがうっていったのに、だれもしんじてくれませんでした。そのときから、ぼくのあだ名は

  

ここまで書くと、僕の目から大きな涙がこぼれてきた。