取り立てて特徴のあるアパートではない。二階建て、アメリカンハウスっぽい外観で、側面の屋根近く、黄色に近いクリーム色の壁に『メゾン灯』という文字が貼り付けられている。

築二十年以上経っていそうだから、壁をペンキで塗り直した形跡はあるものの、古さは隠せない。なぜ大地瞳子がこのアパートに住んでいるかは知らないが、でき立てホヤホヤの今風アパートよりは、こちらが彼女には似合っているという気もする。新築にこだわるようなキャピキャピしたイメージが、彼女にはないから。

軽ワンボックスを駐車場の入口付近に横付けし、ハッチを開けて轟若芽宛の荷物を抱えると、帽子を荷台に放り込んでダッシュで外階段に向かう。まるで一刻も早く彼女に会いたいという体だが、単に配達の時のクセが出ただけで、すぐにゆっくり歩き出す。

渡り廊下の一番奥、二〇三号室のドアの前に立ち、乱れた髪を撫で付けてからインターホンのボタンを押すと、ほどなくして、「はーい」という彼女の声がスピーカーから聞こえてきた。今日もいてくれたのだ。

うれしい気分を抑え、「宅配便ですけどォ」とカメラに向かって答える。冷静を装ったつもりだが、いくぶんニヤけていたらしく、「昨日よりはちょっと愛想いいわね。合格」と返ってきた。

まもなくドアが開けられ、中からなかなか素晴らしい女が姿を現す。今日はバイキンマンのお面を被っていない。薄く化粧をし、優しい眉、覗き込むような上目遣いでドアから顔を出し、「あら、いらっしゃい」と彼女はぼくを迎え入れた。そっちも合格、と言ってやりたくなる。

配達物を差し出して、

「どうも。またまた来ちゃいました。サインください」

「ペンでいいの? それともハンコにする? どっち?」

まじまじと見定めるような眼差しで、彼女はぼくにそんなどうでもいい質問をぶつけてくるのだった。コイツ、また何か企んでいやがる、と思った。