戸口の真鍮の鐘が、明るい空虚な金属音を響かせた。店の方で、大きな影が動いた。

店主は慌てて、迎えに行った。

「あら、もう、平田造園の人が来たみたいだわね」

マス江がむっくりと振り向いた。

「植木屋さん、今日からお仕事やるんですか」と彩香。

「さあ。何でも勝手に睦子さんが決めちゃうからね。でもあたしらだって、地域住人なんだからさ。もうちょっと、市民側の意見を、聞いてほしいもんだよ」

老婆は反り返り、後ろ手で太い腰を、ぽんぽんと叩いた。

「ここの庭作りって、参加してもいいんですか」

彩香は、おすおずと上目遣いで言った。

「ああ、いいともさ。何ならあたしが、保証するよ」

フクロウのような老婆は、とぼけた顔でそう言った。

「それこそ、環境問題だからね」

マス江は、店主の睦子ママのいない間に、わざと方向が分裂するように、小工作したのである。

黒崎耀子は少し離れたところで草をいじっているふりをして、老婆の策略を盗み聞きしていた。そして「ははん、あれがあの婆さんのやり口なのね」とつぶやいた。

 

三人は店に戻って、庭の見える明るいテーブルに座った。そして、それとなく珍客を観察した。

植木屋はすでに、自慢のブレンドコーヒーを出され、遊歩道に近い反対側の席に座っていた。

庭師というので、女たちは人の良さそうな初老の職人を想像していたので、皆、意外な顔をした。

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