「世界遺産になって、同じ世界遺産のイタリアのアルベロベッロに視察に行ってね。あの村は良かったやさ。トゥルッリって石灰岩を円錐形に積み重ねた屋根の家が世界遺産の対象なんだけどね、そこに二十才くらいの夫婦が住んでいたわけ。

その若いお母ちゃんが『アルベロベッロはわたしのハートです』って言うわけや。ハート、つまり心なんや。本当に世界遺産を守るのは心だけや」

太一郎は静かに頷き、篠原もじっと聞いていた。

「他にも世界遺産の町、いろいろ見に行ったけど、おぞいところもあったなー。オレたちの歓迎パーティーを、外で、バーベキューみたいにしてくれてさ。それは嬉しいんやけど、食べている間中、視線を感じるんやさ。パーティー終わったら、バーッとね、大人も子供たちも入ってきて、残り物を食べ始めてなあ。貧しいなあって思ったさ。

もっともおぞくて貧乏なこの村の者がそんなこと言ってはだしかんけど」

自分たちの村を貧しい村だと言い始めたので、篠原は思わず言っていた。

「この村は貧乏じゃないですよ。河田さんの合掌を建てたのは加賀藩の能登大工だって、以前、瑞江さんの説明で聞いたことがありました。能登大工で家を建てられるのは財力のある家だけです。神社や城を建てる大工なんだから。この村は、江戸時代末期、もの凄い財力があったはずですよ」

「ハハ、下々(げげ)の村やよ。白川郷はな、おぞい村やったんや。山里やで、周り中からバカにされとったんや。天領の中で言われるだけでない。隣の越中からもバカにされとった。こちらは天領なのに越中ごときからバカにされて腹が立つわ」

太一郎も深く頷いた。篠原はちょっとむきになって言い返した。