宮本武蔵と忍びの者

【主要登場人物】

宮本(新免)武蔵  十代で円明流という剣術の流派を立ち上げた剣客。

初音      甲賀の女忍び。

太一      初音と同い年の甲賀の忍び。

十蔵      初音たちと同い年の甲賀の忍び。

志乃      圓光寺第六世住職・多田祐仙の長女。

落合忠右衛門      地侍の倅で、武蔵の弟子。

多田半三郎          志乃の従兄で、武蔵の弟子。

平田(新免)無二斎  十手当理流の剣術家で、武蔵の養父。

道庵      京の薬華庵の薬師。

佐助      甲賀出身で、真田幸村に仕える腕利きの忍び。

蓮見(倫)  石田三成に仕える侍女で、甲賀のくノ一。

茜(朱実)  伊賀のくノ一。

如水  出家した元秀吉の軍師・黒田官兵衛考高。

栗山善助  如水の腹心の黒田家家老。

佐々木小次郎  巌流という剣術の流派を立ち上げた剣客。

有紀  北政所(寧々)の侍女。

吉岡清十郎  足利幕府兵法師範第四代総帥。

吉岡伝七郎  清十郎の弟。

綾  清十郎の妻で、吉岡憲房染物屋の女将。

吉塚辰之進  武蔵をつけ狙う柳生の隠密。

猪猿  凄腕の伊賀者。

柳生兵庫助  柳生新陰流道統第三世を継いだ剣客。

松井式部少輔興長  細川家家老・松井佐渡守の二男。

  • 龍野・  圓光寺

穏やかな揖保川(いぼがわ)の清流の川面の細波(さざなみ)に、茜色の夕陽が煌きを添えている。清涼なせせらぎの音が耳に心地よい響きを奏でるその浅瀬には、一羽の白鷺が餌を探していた。

幼名・弁之助(べんのすけ)、いまは元服し宮本みやもと新免(しんめん)武蔵玄信(むさしはるのぶ)と名乗る十六歳の武蔵は、播州 (ばんしゅう) ・龍野(たつの)の城下を緩やかに流れる揖保川の河原を志乃(しの)と歩いていた。

武蔵の一歩後ろを歩む志乃は、武蔵より一つ年下で、龍野・圓光寺(えんこうじ)の第六世住職・多田祐仙(ゆうせん)の長女であった。いかにも育ちの良さそうな細面の整った顔立ちをしていた。

後ろを振り向いた武蔵には、真白い頬を夕陽がほのかに染めた志乃の面差しは、澄明な揖保川の流れにも劣らないほど透き通って見えた。