第五章 話し合い

骨折の原因は、足切断と高次脳機能障害のダブル障害

独りで行動したときは、マイケルになっている。頭が疲れているときは、特に危険だった。行政書士の試験の当日は、朝から雨が降っていた。夫のようすが心配で、試験が終了するであろう時間に夫に電話をした。

「電源が入っていないか、電波が届かない場所に……」

「なんでつながらないんだろう」

マイケルが現れると、私とは連絡をとりたがらないことを知っていた。マイケルは、私のことが嫌いだからなぁ。

実は、前にマイケルが現れた時、私が買ってあげた結婚指輪を自分の指から外して、投げ捨てたことがあった。警察に紛失届を出したものの、今も見つかっていない。

マイケルが私のことを嫌っていることくらい知ってる。て言うか、私もマイケルのことは大っ嫌いだ。ただ、心はマイケルでも、身体は夫で、いつか夫が戻ってくることを信じて、身体を傷つけないようにしておかないといけないと思っていた。

またどこかでここはどこ?私は誰?って言ってないかな。胸騒ぎがした。GPSで探しても、電波が入っていなきゃ、どこにいるかわかるはずもないし、電話をするしかなかった。

「やっと電話に出たよ……もしもし?」

「どこにいるかわからない」

その声は、大っ嫌いなマイケルだった。

「やっぱり……、そこから何が見える?」

「いま地下のようだけど」

「一度電話を切って、確認するから待って」

電話を切って、GPSで確認した。すると、地下にある駅の乗り場の近くだった。すぐに電話をして伝えた。

「地下は、一つしかないでしょ。その近くに駅があるから、その電車に乗って帰ろっか」

「そっか。わかった。電車に向かうわ」

「つないだままにしておいてね」

しばらくして、夫から一言、

「電車に乗ったから切る……(プチッ)」

マイケルなくせに、電車のマナーは知ってるんかい……、と呆れつつ、電車に乗ったであろうことを確認した私は、窓の外を見た。

「雨か……」

傘を持って駅へ急いだ。臨月だった私は本当に動きづらかった。

「まだかなぁ……」

改札の外で待っていた。出てくるのは、マイケルかな? それとも夫かな? 一向に改札に現れない。

「もう我慢できない」

ピピ……ICカードをかざして、改札からプラットホームに向かった。