第一章 浩、狙われる!

東京駅へ向かう列車が、暗い闇の中、まるでシンシンと夜の更ける音が聞こえるようにレールの上を滑るように走って行く。

夜の遅い時間になって、東京行は、殆ど人が乗っていない。

車内は暖かいが、外を見ると、冷たい寒さの先に、吸い込まれるような暗い闇が広がりゾクッとする。

田賀浩は、痩せ気味のほっそりした身体をシートの角の手すりにもたれかけ、ぼんやり外を見ていた。

顔だけは何故かふっくらしているので人なつっこい雰囲気を感じさせ、それが仕事にも生きている。

特に目立つ雰囲気は無く、目立つ特徴の無いのが特徴の三十代の普通の男だった。

敢えて特徴といえば、キャップ好きで常にキャップを被っている。

今日は、契約社員をしている不動産会社の仕事で、千葉みなと駅そばの不動産業者を訪ねた。

都内の売り物件情報が入ったので手伝ってほしい、と依頼が有り、図面と書類を預かって帰るところだ。

列車の中は、田賀と、左前の座席に座って書類を見ている中年のビジネスマンだけが居た。

先頭車両は風を切り裂くような感じのカン高いレール音を鳴らし、暗い闇を走り抜けて行く。

浩は、最近どうも仕事が上手くはかどらないなあ……と感じていた。

自分でも原因は分かっている。田舎の母の具合が余り良くないのが常に気に掛かり、集中力を欠いているのだ。

熊本に居る母は、古希をとっくに過ぎて、釣り好きの父とのんびり過ごしていたが、一ヵ月前に吐血し、びっくりした父が急いで病院へ連れて行った。

医者は、

「検査したが原因はよく分からないですなあ……ストレスでは?」

との診断で胃薬と安定剤を処方し、

「少し様子を見ましょう。」

となって、自宅で療養している。

その後、安定しているが、父からは、

「物忘れが少し出て、ご飯も今迄のように作らない!」

とこぼしている……それを思い出しながら、ボーっとしていると昔の故郷の風景が頭の中を流れて行った……。

故郷の裏山の中腹に有る展望台、幼い頃、そばの小さな動物園へ行きリスが走り回る後を追っかけたり、ポニーの背中に乗るのが本当に楽しくて父や母とワイワイ言いながら、展望台のベンチに座って、母の手作り弁当のおかずを妹とよく取りっこをした。

展望台には望遠鏡が一つ有り、十円を入れて覗いた先には、遠くの船の上で作業している人が、まるですぐそばに居て、働いているようだった……。