第一章 浩、狙われる!

丸田は、京葉線蘇我駅に近い此処中華『三原』のタンメンが大好きで、カウンター越しに調理をする店の息子らしい男の手を見つめていた。

沢山の野菜が中華鍋に放り込まれ、手早く炒めながら調味料を入れる。

横のずんどうからぐつぐつ煮立ったスープをたっぷり流し入れるのを見ていたら、口の中でジュワっと唾液が溢れ、音を立てるように喉が鳴った。

一つ席を空けて隣の若い男もタンメンを頼んでいるようで、調理する息子の手元を美味しそうに眺めている。

早速出された美味しそうな匂いと、湯気が立ち上るタンメンを食べながら、此処の店は、本当に美味しいな! といつものように感動していた。

食べながら、美味しいチャーシューがたっぷり入った炒飯も名物なのを思い出し、今日はもう遅いから炒飯を頼まなかったが、今度は絶対両方頼むぞ! と思った時だった。

ガチャン! という音と共に、入口辺りでシャツをはだけた二人の若い男の一人が、大きい声で、

「熱!」と言って、立ち上がった。

「ババア! 熱いじゃねえか!」

おばさんがその客に出したラーメンの器が、男の手に当たってつゆが少しこぼれ、手に飛んだらしい。

丸田は、そんなことで大きい声を上げなくてもよいのに……と思いながら見ていると、男は、

「客に熱い汁を飛ばして、『すみません!』だけで終わりか? ババア!」

おばさんも強気で、

「ごめんなさいって謝ったでしょうが……お宅も手を振り回さなければ当たらなかったのに……」

「何! 俺が悪いと言うのか? このくそババア!」

と言って、ふいにおばさんの右肩を押した。びっくりしたおばさんは避けようも無く回転しながら、何処かを掴もうと手を伸ばしたが、掴まえられずそのまま腰から倒れた。「痛い!」

とおばさんが腰を打って悲鳴を上げた。すると調理をしていた男が、

「何すんだ! おばさんに!」

と言いながら、お玉を手に乗り出して来た。

座っていた相方のチンピラが直ぐ立ち上がり、お玉を持った男を睨みながら、

「やるか!」

と大声を出し、置かれていたラーメン鉢をテーブルから調理人の方へ向かって叩き落とした。ガシャン!!と割れる音と共に、

「熱い!」

と言う声が、調理人とおばさんの口から飛び出る。

それを見た丸田は、カウンターから出入口へ一気に駆け寄り、持っていたブリーフケースを最初の男のこめかみにヒットさせ、立ち上がった男の足膝裏へ鋭い蹴りを放った。

男二人は、その場で、

「アッ!」

と声を上げ、尻から崩れ落ちた。