第二章「天の神様と土の神様」  ゆう

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「由紀さん、ここに来ているみなさんは、あなたの味方です。もし、悩みがあるのなら話してはくれませんか? 皆さん、心配されています」見るに見かねて、先生が言う。

「すみません。皆さんにご心配を掛けて、作業の手を止めさせてしまって」

「いいのよ。それよりも、私たちは、由紀ちゃんの笑顔が見られないのが辛いの。おじいちゃん、おばあちゃんは、孫のようにかわいいあなたの笑顔が長生きの一番の薬なのよ」と佳代さん。

「実は、私から彼を振ってしまったんです」声のする方を向いて、私は話し始めた。

「あら、最低の男だったの? それなら振って正解よ」

「いえ、逆です。とっても温かくて、私にはもったいないくらいの人でした」

「じゃ、どうして?」

「私、思ったんです。これから先、この人は、私に気を遣ってばかりの人生になってしまわないだろうか? 目が見えない私といると、彼は私のために、やりたいこと全部、あきらめてしまうんじゃないか、と。それが恐くて」

「そんなの一緒になってみないと分からないわよ。みんなそう」

同じ塾生の方々が、「そうだそうだ」と優しく励ましてくれた。先生が言う。

「あなたは今、予測できない日常に戸惑っているのですね。意図しないことが目の前に起きて、どうしたらいいのか道に迷っている。そんなときは、受け容れることです。許容するのです。新たなあなたを見つけてくれた彼を、受け容れて、対話を通して調和し、影響し合うことです。それが『あわい』です」

6

土砂降りの停留所。由紀は傘を差しながら立っていた。

いつもなら、雨の日は両親が車で大学まで送ってくれるのだけど、今日は、自分からバスに乗りたいとお願いした。

今日で五日目だ。バスに乗り込んでもシトラスの香りはなく、誉さんの姿が感じられない。私に愛想をつかしてしまったのだろうか? 当然といえばそれまでだけど。電話よりも直接会って、想いを伝えたいと思った。優先席に座る。シートのクッションが柔らかいせいで、体が沈む。

「あら、今日は恋人と一緒じゃないの?」と隣に座っているおばあさんから声を掛けられた。