「彼に会えると思って、乗ってみたんですけど……。ケンカしちゃって、謝りたくて」

心に思っていることを言葉にすると、涙が流れ星のように、頬を伝って零れていく。

終わっちゃうのかな? 本当に──。

「このティッシュ、使いなさい。あなたたち二人を見ていて、とてもお似合いだと思っていたけどね。あの男の子、いつもバスターミナルから乗って来るさあね。あなたの席を取っておきたいからって、おばあに話してくれたときがあったさ」

おばあさんは、泣いている私の背中をさすりながら、誉さんが話してくれたことを私にも話してくださった。

誉は、夜間大学に通っている。日中は、誉の住んでいるアパートからバスで一時間ほど離れた介護施設でアルバイトをしている。

なぜ、アルバイト先が、アパートから遠く離れた場所なのか。それは、たまたま通ったバス停に、由紀が立っていたからだ。バス停をただ通り過ぎることもできた。でも、誉は、二年前に由紀を一目見たときの、凛とした姿が忘れられなかった。

そこへバスが到着し、彼女がそのバスに乗ったのを見ると、誉の体は条件反射的に、バスに乗っていた。別にアルバイト先を探しているのだし、アルバイト先は住んでいる近場がいいなんて、そんなことはない。と、なんだかんだ思いつく言い訳を自分に言い聞かせて、バスに乗った自分の浅はかな行動を、無理やりに納得させた。

由紀は、沖縄本島に一つしかない国立大学のバス停で降りた。誉は、降りなかった。

なぜって、それは、少し落ち着きたかったからだ。彼女と乗り合わせたバスの中、誉は、彼女の腕を引いて、席に案内した。ただでさえ、話し掛けるかどうしようかと、決めかねていたにもかかわらず、席に座れずにいる由紀を見ていると、居ても立っても居られなかった。

まだ、誉はドキドキしている。彼女が降りたバス停から一つ離れた場所で、ようやく落ち着きが戻り、バスを降りた。降りたバス停の近くには、介護施設があり、「アルバイト募集」のポスターがドアに貼られていた。誉は、迷わずそこで働くことを決意した。

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