第二章「天の神様と土の神様」  ゆう

「あの新垣さん、面白い人ですよね」と私。意外という風に、誉さんが理由を聞いた。

「前に、盲学校の講演会で話をされていて、それが面白かったんです。特に、『目が見えるとか見えないとかは、生きる上で重要じゃない。目が見えていても見えていないふりをする人たちが世の中にはたくさんいる。重要なことは、物事の本質を見ようとする気持ちです!』って、盲学校の保護者もいる中で、直球を投げられた感じがしたわ」

そうなのだ。目の見えない私たちに、世の中の人たちが投げるボールは、いつも山なりのボール。ふんわりと、傷つけないように──。だからこそ、あのとき、新垣さんが言った「見えるとか見えないとか」発言は、衝撃的だった。

誉さんは、時々、こういうカフェで大学の勉強をしていると話してくれた。誉さんは、夜間大学に通っていて、理学療法を専攻していることも分かった。好きな音楽は、二年前に再結成して、再び人気を博した「Bird」というジャズポップグループの曲だそうだ。

「今度よかったら、一緒に……」口ごもる語尾。「ライブに行こう」と言いたかったんだろうな──。心で思っていることが、なかなか言葉にできない。

本当の私は、ココアよりレモネードが好きだし、屋内よりは自然と戯れる方が、心が落ち着く。でも、そんなことは、言えなかった。いつも、心の中で思ってばかり──。もし、目が見えていたら、言いたいこと全部、言えるのかな?

私は、当たり障りのないことを言って、なるべく誉さんを困らせないように気を遣って話した。嬉しい時間のはずなのに、なんか寂しさを感じる。一人でいるときよりもずっと、ずっと──。

楽しみにしていた初デートが、まさかこんな終わりになるなんて、今朝の私は、一ミリも想像していなかった。

帰り道、今朝待ち合わせしたバス停まで、二人で歩いていた。私は、思う。やっと好きになれる人に出逢えたと思ったのに、目が見えない私には、普通のデートさえできない。映画館や水族館に行ったり、商店街で食べ歩きをしたり、寄り道を楽しんだりすることが、私と一緒だとできない。私は、足を止めた。

「ん?どうしたの?」と誉さんの声。私は、悲しいけど、悔しいけど、自分から言うしかないと思った。

「私と一緒にいるの、疲れませんか?目は見えないし、ファストフードとか行ってもメニュー見られないから注文できないし、誉さん、私に気を遣って何も楽しめなかったんじゃないですか?私、嫌なんです。私のせいで、誰かを不幸にしているようで。私の両親だって、誉さんだって。私がいるせいで、楽しいこと全部、遠慮していませんか?」