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 深海の岩

「だいちゃんが部活休むの?」

驚いて、僕はフェンスの向こう側に立っているだいちゃんに聞き返した。

「トレーニングし過ぎて、体が痛ぇんだ。平良先生が、一日筋肉休ませろって。練習見てるのも勝手に力が入るからだめなんだって。したっけ、明日な」

だいちゃんは僕にそう言い残し、また部員たちの輪の中に戻っていった。真っ黒い顔が、眩しいくらいに光っていた。それはだいちゃんの体から発せられる光線のようなものだ。

だいちゃんは、どこにいても人目を引く。人を惹きつける強い光を持っている。そんな素材を持った人間が、更に努力を重ねる。素晴らしいことだと思う。

体が痛くなるほど、少し休めと言われるほど毎日練習することなんて、きっと僕には出来ない。そう思うと、今の自分が少し後ろめたくなった。

家から学校までは徒歩十五分、その中間くらいの地点に、時々僕らが寄り道する小さな公園があった。夕方近いから閑散として、小さい子供はほとんどいなかった。

「まことと一緒にここに来るの久しぶりだよなぁ」

ガリガリ君をかじりながら、だいちゃんはそう言って僕らが座っている親子ブランコをゆらりゆらりと揺らした。ガリガリ君は昔からだいちゃんの好物だった。夏でも冬でもいつも関係なく食べていた。

がんがんに暖房の入った北海道の室内で食べる真冬のアイスは、夏よりも数倍美味しい。真冬に二人でふざけて、雪の中で食べたこともあったっけ。

だいちゃんの家の向かいには昔、まあまあの広さの畑があった。今では家が建っているその場所は冬になると町内の雪捨て場になって、当時はそれがけっこう重宝されていた。

大人にとってはただ煩わしいだけの雪も、子供たちにとっては全てが遊び道具で、町内中から集まった雪の中で僕らは大喜びで雪だるまやカマクラを作って遊んだ。

苦労して二人で大きなカマクラを作った時、その中で何をするか悩んだ末に、ガリガリ君を持ち込んでふざけながら二人で食べた。寒い所で冷たい物を食べて、あの頃はそんな馬鹿馬鹿しい行動がいちいち面白かった。

雪山のある公園では、飽きるまでよくソリ遊びをした。体の重いだいちゃんがソリの先頭に乗ると、僕が滑る時とは比較にならないくらい速くて、ものすごいジャンプをしてソリから投げ出された時は二人でお腹がよじれるほど笑った。