第二 雑歌の章その二  

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一方、とうとう自分にもその日がやってきたと美桜は心弾んで歩きながら、梨花と同じようにノートを作成しようと考えていた。しかし親友の梨花が自分と同じ気持ちを抱いたことには全く気づいていなかった。普段なら家に着くとリビングで母親とお茶を飲み話をしてから自分の部屋に行くが、今日はそんなことをしている暇はないと思い自分の部屋に直接向かう。

すぐに新しいノートを取り出すと表紙に赤いマジックで、『風神優凪君と必ず付き合う』と強く決意表明する。そこには日記のように経験したことを書き込むのではなく、これからの目標を立てることにし、それをYOUノートと命名した。その日にそれがどの位達成できているかを記載して目標の変更や新たな目標についても考えることにしよう。

第一段階 まず私から声をかけて顔を覚えてもらう。彼を風神君と呼ぶ。私の苗字を覚えてもらい結城さんと呼んでもらう。

第二段階 二人で並んで一緒に帰る。彼を優凪君と呼び、私を美桜さんと呼んでもらう。

第三段階 ボディタッチ……まずは指切りから。彼を優君と呼び私をミオと呼んでもらう。

第四段階 二人で図書室に行き告白する。彼をユウと呼ぶ。

第五段階 手をつないで帰る。

第六段階 腕を組んで恋人繋ぎする。

第七段階 彼の頬にキスをする。

第八段階 彼を自分の部屋に呼ぶ。

第九段階 休みの日二人で出かける。

第十段階 彼と初キスをする。

キスをすると書いてそのシーンを思い浮かべ、肩をそっとすくめて可愛く微笑む美桜。

あとは今日作った目標を実行するのみと彼女は思っていた。

受動的な梨花と能動的な美桜の性格の違いがノートの作成の仕方に差となって表れた。

今までお守りを持ったことのない美桜は神社に行っても願い事はせず、神頼みをしたことは一切なかった。これまでは自分一人の力で問題を全て解決し進むべき道を切り開いてきた。悩み事があっても友達や両親に相談することはなかった。常に前を見て後ろは振り返らない。そうすれば結果は後からついてくる。自分が考えて行動すれば必ず願いは叶うはずだと思っていた。

後悔は絶対したくない。後悔だけは絶対嫌だ。後悔するぐらいなら最初から諦めたほうがまだましだとさえ思っている――スーパーポジティブな性格の持ち主の美桜。

その思考と自信が彼女の美しさをより引き立たせる。やる気をみせて集中すればするほど光り輝いて魅力的に見えた。そういう時の彼女は周りが息をのむほどその美しさに磨きがかかった。