第1章 山本(やまもと)果音(かのん)

九.嘘 

待ち合わせ当日、果音は服を選ぶのに一時間もかかった。ヘアアイロンも念入りにし、お化粧も少ししてみた。

母親には小学校時代の友達に会うと嘘をついたが、「あっ、そう」とだけ返ってきた。

約束の時間より十分も早く着いた果音は、今か今かとショウの到着を待ちわびた。

駅の時計を何度も見ては、ため息をついているその時だった。

プップ~。

果音はクラクションの音に一瞬驚いたが、目の前に現れた真っ赤なスポーツカーを見て心が躍った。

(え、もしかしてこれって、ショウ君の?)

ウィンドウが下がり、運転席の男が果音に声をかける。

「果音ちゃん、おまたせ」

(え?)果音は一瞬、自分の目を疑った。

(だ、誰? このおじさん)

目の前の男は、どう見ても四十は超えている。脂ギッシュな人だった。

「どうしたの? 早く乗りなよ~」

果音の足がガクガクと震え、顔がこわばる。

次の瞬間、果音はただ一目散に走っていた。

涙が頬をつたって流れる。

(嫌だ! 怖い!)

走りながら、果音は叫ぶ。

「だまされた! ショウ君の写真は他人の写真だ。歳だって嘘だ。ショウ君なんて、どこにもいない。今まで信じていたのに!」

家に戻った果音はそのまま自分の部屋に入り、ドサッとベッドに倒れ込んだ。

母親が何か言っていたが、果音の耳にはもはや何も聞こえなかった。

ピロリ~ン♪

男からメッセージが届いた。

恐る恐る画面を見ると、そこには信じられない言葉が並んでいた。

「ガキ! なんで逃げた? 今まで散々、悩み聞いてあげただろうよ。ガキに合わせるために、こっちは苦労したのに! ふざけるな。すぐ来い!」

(どうしよう。怖い)

取りあえずメッセージはブロックしたが、家まで押しかけてきたらと思うと怖くてたまらなかった。

もう誰も信じられないと泣き崩れながら、果音は何故かバーバラの口癖を思い出すのであった。

―きっと大丈夫―