ベスト・オブ・プリンセス

「でも確実にそこに正社員登用されるかもわからないし、不安定すぎない?」

私の進路予定に、慎二は揚げ足を取るように欠点要素を並べ立てた。その口調は私や仲の良い人間を心配するときのそれではなく、相手を見下し、あえて不安にさせるときのものだった。

その時点で彼とは、知り合った時期を加えると三年近くの月日が経過していたため、その頃には彼の意地の悪さや嫌味な部分にも私は気が付いていた。

「安定かどうかはわからないけれど、チャンスだとは思ってるよ。最初はアルバイトだとしても、そこから正社員になった先輩も事務所にはいるし」

「ああ、そう」

慎二の表情は明らかに都合が悪そうな人間が浮かべるそのものだった。

「ごめん、言いたいことがあるならはっきり言って」

しばしの沈黙の後、その空間を私は意図的に切り裂く。今日会ったときの彼の態度や発言から、私に対して何らかの思惑が働いていることは勘づいていた。そして、彼が卒業論文の提出終わりにわざわざ呼び出してくるということは、私たちのこれからについて何か言いたいことがあるのではないかと私は予想していた。

「いや、あのさ、美夏が卒業したら、俺の地元に来て欲しいって思っててさ」

「それは、私も一緒に慎二の家業を手伝うということ?」

「そう。あと、なるべく早く結婚したほうが親も安心するしさ」

「待って、勝手に話を進めないで。第一、いつかは結婚をするにしても、どうして私が慎二の家業を手伝うことが前提なの? 地元に行くとしても同じ仕事をしなきゃいけないの?」

結婚、地元、家業の手伝い。私の耳に入ってくる慎二の言葉からは、その奥にある古い慣習やそれに伴う不自由さ、世間知らずさと身勝手さが充満していた。

「うちの家は代々そうなんだよ。それにお前にとってもラッキーじゃん。就活しなくていいし、そのまま結婚して安定した人生送れるんだし」

学生時代に出会った恋人は、進路などの価値観の違いで破局することが多いと誰かから聞いていたが、ここまで自分の価値観を他者に押し付けることができる人間がいること、またそんな人と大学時代の大半を恋人として共にしていたことに、私は強いショックを受けた。

「慎二は、どうしてそんなに早く結婚することにこだわるの」

「だから、家継ぐときにそのまま結婚したほうが親も安心するからだって」

「家を継いだばかりの時期に社会経験のない人間と結婚を決めることで、親御さんが安心すると本気で思ってるの?」

「いや、それは、なんというか」