同じ名前の鳥が鳴く

交際相手の有無を聞く際に、「恋人」という単語を用いる人には好感が持てる。

そう言っていたのは去年の春まで付き合っていた人だった。二歳年上のその人は大学の同級生だったが二年生のときに学校を中退し、それ以降は職を転々としていた。

彼女は異常とも言えるほどの甘党で、この話をしていたときもガムシロップが三個も入ったアイスカフェオレを飲んでいた。全国チェーンのコーヒーショップの喫煙席で、私は注文したブレンドコーヒーをおざなりにしていた。彼女は喫煙者ではなかったが、ふたりでいるときは自ら喫煙可能な店に入りたがった。

「七美がたばこ吸ってるときの顔が好きなの」

付き合いたての頃、彼女がそう言っていたのを思い出す。そのたびに私は、彼女の服や髪に不本意なニオイが付いてしまうのが気がかりでたまらない気持ちになったが、かく言う私も禁煙席を自ら所望することはなかった。

「だからって別に、彼氏いますかって聞かれるのがすごく嫌ってわけでもないよ。でもやっぱり、安心するんだよね」

その頃彼女は、派遣で建設事務所の事務員をしていた。彼女がこの類の話をするのは様々な偏見による悲しみに心を曇らせているときで、最中は決まって瞳が大きくぐらついた。

それを最低限の相槌で見守るこの時間ほど、私の承認欲求と存在意義への慢心を満たすものはなかった。