千佳が両手を合わせ、しおらしく神妙な顔でお願いのポーズをする。

「大学のレポート提出の課題があって、また英文でレポート書かなくちゃいけないの。レポートはもう書き上げて、そのUSBメモリにコピーしてあるわ。だけど、まだそのレポートに自信がないから内容を見て欲しいの」

圭が嫌な顔をして言う。

「またか。しょうがないな。この前の千佳の英文はひどかったからな。わかったよ、来週までに見ておいてやるよ」

圭はそう言って大型バイクに乗って帰っていった。

一週間後、圭がキッチンにいると玄関のインターフォンが鳴り、モニターに笑顔の千佳が映っている。玄関のドアを開けると、千佳は部屋の中にバタバタと入っていき、そのまま寝室にある椅子に座る。

千佳は勝手にパソコンを立ち上げ、フォルダーを開けて、自分のレポートを見つける。千佳は英文のレポートを画面に大きく映し出し、大声で文句を言う。

「私が書いたレポートで、文字の赤くなったところは、いったいどういう意味なの?」

圭が笑いながらマグカップを持って寝室に入っていく。

「この前レポートを見てやった時、俺が英文を全部書き直してやったけど、そのやり方は間違いだと気づいたのさ。今回はできるだけ自分で直してもらうことにしたよ。その赤く色が変わっている英文は、文法的な間違いのある文だ。まずその赤い色の英文を直してもらおうかな」

圭はまるで塾の講師のようにそう言ってキッチンに戻り、何か料理を作り始める。しばらくしてスパイスの香りが広がり、その香りに誘われて千佳がやってくる。キッチンにやってきた千佳に言う。

「千佳が英文を全部直すのには時間がかかると思って、夕食のカレーを作ることにしたのさ。レポートが完成するまでこの特製カレーは食べさせないぞ」

千佳は、

「ワーイ、私、カレー大好きよ。すぐにレポートを直してみせるわ」

と言い、喜んでいる。太陽が沈み始めた頃、カレーの調理を終え、リビングのソファに寝そべって本を読んでいる圭に、千佳が声をかける。

「圭、赤い色に変わっている文は全部直したから、見てもらいたいわ」

圭は寝室の中に入っていき、千佳が座っている椅子の後ろに立つ。