1 はじまりの火事

「最後にいいですか?」

そろそろ切り上げなくてはと思い、早口になってあずみは訊いた。

「ええ」

「先ほど、ご主人が実家に泊まることはそう珍しいことではない、と言われていましたけど……」

「ええ、そうね。これまでにも何度かあったわ」

「ということは、実家では、今でもある程度、生活できる状態にされていたのですか? 例えば水道とか電気とか……」

櫻井氏が、当日になって急遽泊まると言い出した、ということはそういうことだろう。何もない真っ暗な状態で泊まるというのは考えにくい。

「そうなの。まだ義母が亡くなって一年でしょ。主人としてはしばらくそのままでいたかったみたいなの。まだ家具なんかも処分しないで置いてあったわ」

あずみもなるほどと思った。

「それではあの日、火事の原因となった石油ストーブも、元々ご実家にあったものなのでしょうか?」

警察の見立てでは、火事の原因は居間に置いてあった石油ストーブからの出火だとみられている。

「ああ、ストーブね。確か、義母が使っていたものがあったと思うの。でも、義母が亡くなって以来、私もあの家にほとんど行ってないのよ。だから同じものかどうか……」

夫人も、自信がなさそうに答える。

たぶん生前、実家で使っていたとされる石油ストーブで間違いないだろう。しかし、あの夜に限って、そのストーブに外部から何か細工をするということは考えにくい。

これはやはり、櫻井氏が誤ってストーブの火を消し忘れた失火とみてとるのが自然なのではないのか。状況から言って、放火の可能性というのだけは否定される。

「いろいろとありがとうございました。義兄にも今日のお話は伝えておきます」

あずみは、改めて礼を言った。あまり収穫があったとは言えないが、それでも直接、櫻井夫人の話を聞けて、あずみも少しは納得できる部分があったのは確かだ。

「こちらこそありがとうね。お義兄様には事件の再捜査とかは望んでいない、とお伝えください」