1 はじまりの火事

あずみの思い描いていた真琴の家は、予想に反して、西洋風ではなく純日本風の瓦屋根のどっしりとした木造建築だった。案外こういう日本家屋ほどこだわりがあり、今時の西洋風の家より価値があるのかもしれない。

案内されたのは広い応接室。高そうな調度に囲まれて、柔らかいソファに座っているあずみの傍で、真琴も心なしか緊張しているように見える。

「お待たせしてごめんなさいね」

応接室のドアが開いて、真琴の母親が入ってきた。

品の良いグレーのワンピースにゆったりとした毛糸の紺のカーディガンをはおっている。モデル並みにスタイルもいいし、同級生のお母さんの中では、きっと群を抜いて綺麗だと思う。でもどこか生活感がない。やっぱり家事とか自分でしないからだろうか……。

さらにドアが開いて、家政婦さんがティーセットを運んできた。六十すぎくらいの、少しふくよかな女性。そうよね。家事はやっぱり家政婦さんがいるから、していないよね。家政婦さんの名前は(れい)()さんといった。令子さんは、この辺りで有名な洋菓子屋さんのチーズケーキと紅茶を置いて出て行った。

「あずみのお義兄さんは刑事で、今回の火事の捜査も担当しているらしいの。だから、パパが亡くなった日のことを、もう一度聞かせてほしいんだって」

あずみは義兄からの依頼で来たような顔をして、櫻井夫人に質問を始めた。

「あの……火事にあった日のご主人の行動を、もう一度教えてもらえますか?」

「ええ」

櫻井夫人はゆっくりと話し出した。

「あの日は、もともと仕事の日ではなかったの。でも、主人は気になる取引が近いうちにあるからと言って、とりあえず午後から会社に出掛けて行ったわ」

「それで、まずお仕事が終わって帰られるというときに一度お電話があったとか……」

「ええ。あれは、五時すぎだったかしら……」

櫻井夫人は、リビングからスマホを持ってきて着信履歴を確認した。

夫人の説明によると、このようなことらしい。