1 はじまりの火事

「うちのパパって、絶対殺されたんだと思うの」

いきなり何を言い出すのかと思えば、()(こと)は頼み終えたAランチのプレートを置くやいなや、本題に入ってそう話し出した。しかもまだ、あずみが真琴の父親についてのお悔やみを言う前に。

「あの……でも新聞で見たよ。お父さんが亡くなったのは事故だったんでしょ?」

あずみは真琴の飛躍した考えを加熱させないように、あえて冷静な口調で話したつもりだ。

「あずみ! 私は冷静に話しているの! 別に面白がって事件にしようとしているわけじゃないのよ!」

こぶしで叩いた拍子にコップの水が飛び散ったけどね。

「あれは、事故とみせかけた殺人なのよ!」

ああ、すでに手は付けられない……。

「えぇっと、つまり、あれってことよね。うちのお義兄さんに再捜査を依頼したいってこと?」

「うん、そうそう」

真琴は突然愛想よく、現金な表情を見せた。

ふたりの間に多少の沈黙。

あずみは池の傍の銅像と目があった。初代学長先生の銅像である。

「でもその火事は、すでに空き家だった実家での火の不始末が原因だったんでしょ?」

「うん、そう」

「それで、たまたまその日、終電を逃したお父さんがそこに残ることになったので、火事に巻き込まれた」

「うん。そうなんだけど。でも、火の不始末って言っても、居間に堂々とストーブの火をつけっぱなしで寝るようなパパじゃなかったわ。そういうのは人一倍、気を付けていたし。ましてや日頃、誰もいない実家でのこと……」

あずみは、慎重に説得の言葉を探していた。また学長先生と目があった。

「う~ん、お義兄さんにその後、新聞で発表されたこと以外に進展があったのか、聞いてはみるけどね。でも、放火とか殺人とかそういうのにはならないと思うよ」

なんとかこの程度で許してはもらえないか。

「うん、分かってる」

「だから、再捜査とかも、きっとない」

「うん」

真琴も一応、素直にうなずいた。あずみもそれに応えるかのように強くうなずいた。

今日は十二月十日。そろそろ初雪が観測されてもおかしくない時節。学食の窓から見える学長先生の銅像は、あと数日もすれば白髪の姿に変わることだろう。