二 なぜ、「不適切なかかわり」はなくならないのか

教員は〝俯瞰〟すべし

一昔前、「PISA調査」が注目されたことを覚えているだろうか? 

PISA調査とは、OECD加盟国を中心とした世界各国の一五歳を対象に、以下の目的で二〇〇〇年から三年ごとに実施されている「生徒の学習到達度調査」(Programme for International Student Assessment)のことである。

「それまで学校や様々な生活場面で学んできたことを、将来、社会生活で直面するであろう様々な課題に活用する力がどの程度身に付いているかを測定すること」

(国立教育政策研究所、二〇〇四年、i頁)

この調査は世界各国の教育政策に影響を与えたといわれているが、その基本理念の一つに「メタ認知」がある。

「メタ認知(metacognition)の『メタ(meta-)』とは、『高次な』や『一段上の』という意味を持つ接頭語で、『認知(cognition)』は、見たり、聞いたり、考えたりなどといった知的営みや活動を指す言葉です。つまり、メタ認知とは自らの認知活動を高次な(一段上の)レベルから認知することを意味する言葉」

(久坂、二〇二〇)

メタ認知は、日本語で言えば〝俯瞰〟に近い概念である。いまでも、それは学習指導要領の基盤となっている。

この「メタ」な視点を持てないと、物事の全体像が把握できず、独りよがりになりやすい。自分の言動が社会の中でどの程度の支持を得られるものか、あるいは教育という営みのなかで、どんな意味を持つのかを省みることができない。

現代は多様化が進んだ社会である。個々の生徒や保護者の価値観は多種多様となった。教員がいくら自分の信じる価値を絶対的なものとして押しつけようとしても、十分な理解を得ることは難しい。

そうなった詳しい要因は別の章に譲るとして、とにかく重要なことは、教員が近視眼的なままでいるということだ。

多様化が進む社会では、教員と生徒、保護者が共有できるものを見出すために、異なる価値を〝俯瞰〟する視点が必要になる。しかし、多くの教員は不安や焦りを感じながらも過去の指導方法にしがみつく。だから、周囲との軋轢を生み出す。