迷いながら揺れ動く女のこころ

生徒さん達もつられて「おはようございます」と返すと同時に軽快な音楽が流れた。インストラクターは二十代後半のピチピチギャル風で髪の毛を後ろにポニーテールに結んでいた。装いは胸元が大きく開いたランニングシャツ風で、多分専門用語で***と言うのだろうと思いながらも言葉が出てこない。ボトムはごく短いパンツだった。

美代子は一番後方からこのクラスの参加人数を目算で三十人位とはじいた。

音楽のリズムに合わせて、初歩のゆっくりしたステップからスタートした。美代子のお隣のご婦人がにこっと笑いながら会釈した。美代子も気持ちを込めて笑顔で応えた。

だんだんとリズムが早くなり、体の動く動作範囲も広くなった。お隣と充分間隔をとって美代子もぎこちなく体を動かし続けた。

二十分ぐらいたった頃、五分間の休憩があって、美代子は汗びっしょりになった上半身をタオルで頭から拭って拭きはらった。

前半の美代子の動きを見ていたお隣のご婦人が「初めてですか?」とねぎらいの声を掛けてくれた。

美代子は「そうなんです。普段運動しないからこたえますね! 奥様は長いんですか?」

「まだ、始めて半年程度です。無理しないでやっていきましょう」と美代子をいたわるように優しく語った。見るからに、四十歳前後で気の合いそうな感じがしていた。

インストラクターが小走りで戻ってきた。

「さあ、始めましょう。今日初めての方はいますか?」とここで初めてチェックが入った。自分を含め三、四人の人が右手を上げた。

「無理しないで自分のペースでいきましょうね。しんどくなったら遠慮なく途中で休んでください」

ハイテンポな曲がフロア一杯に広がった。美代子も必死に皆についていった。最後の方になると足が上がらなくなった。でも体を酷使することで毒素が混じった汗を流し出すと思うと耐えられた。後半の二十分が終わり、ゆったりした柔軟運動に入り「やり遂げた」と充足感で一杯になり、インストラクターの「お疲れ様」という言葉を聞くと床面にしばらく横たわった。

お隣のご婦人が「初日にしてはよく頑張りましたね。私は篠田と言います。よろしく」

美代子は「私は山形と言います。よろしく」と汗ばんだ顔で微笑んで返した。