成長という木

「そう?」

純太は安易に同意する事は避け、もっと荻原から新情報が得られるかと期待した。

「どうしてあいつら、アキラにくっついていると思う?」

「どうしてって、そんな事分からないよ」

「カネ、カネだよ。アキラの奴、いつも誰かに奢っている。俺はまだ奢ってもらった事はないけどな」

荻原は奢ってもらったら「アキラのグループに入って、お前をいじめるかもしれない」と言っているようなものだ。

「それに、榊原に聞いたんだけどさ。お前の顔が中学時代にいつもアキラをいじめていた奴に似ているんだって」

「え、そんな事知らないよ。まったく、冗談じゃない」

純太の驚いた顔にやっと満足したように荻原が頷いた。

「な、やばいだろ? 俺はさ、お前の味方だって事は覚えておけよ。何かあったらさ、いつでも声かけろよ」

荻原はいつの間にか頼りになる親友かのように純太の肩に手を置いた。

「お前もいつか切れて、あいつの事刺したりしてな」

扇情的な荻原の言葉に、二年生に起こった出来事を暗に指している事は分かった。

「変な事言うなよ。俺は別にいじめられてないしさ」

荻原は「へへ」と笑った。

純太の目の前を自転車に乗った綾乃が通った。チラリと目が合ったような気がしたが綾乃は知らん顔で通り過ぎていった。純太は澄ました顔で走り去っていった綾乃に少しムカついた。

「ん、じゃな」

純太はここを立ち去る言葉を言った。コンビニのゴミ箱の傍から離れない荻原が気になったがそのまま奴と会話を続ける気にもならなかった。

綾乃の後ろを追うように自転車を走らせた。さっきムカついた気持ちが消えたのもアキラの過去が確かなものだと知って一筋の光明を見つけたからだ。

保育園から小学校、中学校と同じで、純太が受験する高校に「私も純太と同じ学校、受験しようかな」と言っていたが本当に受験するなんて思ってもいなかった。

聡が亡くなってから何となく二人の関係が疎遠なものになっていたからだ。

信号が見えた。あの信号機のところを渡れば綾乃の家は近い。純太は二倍の足漕ぎで綾乃に追いついた。

「綾乃」

突然名前を呼ばれて綾乃は驚いたように振り向いた。純太の姿を確認した様子だったのに、直ぐに前に向き直って何事もなかったように青に変わった信号を確認すると自転車を漕いで行ってしまった。

「何だよ、あいつ」

再び純太は綾乃に無視されて傷ついた。

高校に入ってから綾乃は急に女子力が上がってまぶしく感じた。それと比例して綾乃は純太を無視する事が多くなった。高校生という青春の入り口で純太は醜態をさらし、綾乃の眼中から消えていったのだ。

(ああ、一番良い青春時代に嫌われたのだ。アキラのせいで)と純太は思った。