シンvs.グラスト

「・・・・・・・・・痛って。」

ユウと離れ離れになりながらも、シンは懸命に1人で戦い続けていた。

「痛いで終わりですか。」

グラストは自嘲気味に笑う。

「冷凍ガスを何度も浴びせました。氷の爪で何回も切り刻みました。」

「・・・・・・・・・・・」

「それなのに、『痛い』程度ですか。」

「・・・・・・・・・・・」

卓越した肉体強化魔法特化型。

シンの能力を言葉で表すとするなら、それ以外に他はないだろう。

自己治癒力、視覚判断、運動神経など・・・・・・・・人間の体に備わっているありとあらゆる力を飛躍的に上昇させるこの魔法を、シンは、人並みを遥かに超えた精度で扱うことができた。

それ故に、彼はまったくと言っていいほど、肉体強化魔法以外の魔法を習得することができなかった。

「警戒しすぎではないかと思っていましたが・・・・・・・魔王様が言っていたことも少しわかります。」

「・・・・・・・・・・・」

「ですが、まだ私の方が強い。」

「随分と余裕だな。」

「当然です。貴方の命を奪うのは骨が折れそうですが、確実にできることです。魔法使いくんの方は、そこまで時間がかかりませんので。」

「・・・・・・・・・・・・なんだと?」

大切な存在を侮辱され、シンは胸中に激しい苛立ちを覚えた。

「実は私、目が見えないんです。」

「!」

「そのせいか・・・・・・変な特技が身に付いてしまいましてね。」

「・・・・・・・・・・・」

「魔力の気配が手に取るようにわかり、その気配によって・・・・・・・・・相手の才能の『質』みたいなものを、完璧に把握できるようになりました。」

「・・・・・・・・・・・」

「残念ながら魔法使いくんは・・・・・・・正真正銘! 疑いようのない『凡人』です!」

「・・・・・・・・・・・」

「私や貴方のような『絶対的な存在』にはなれません!」

「・・・・・・・・・・・」

「きっと、たくさん努力して、頑張ったんでしょうね・・・・・・・・可哀想に。」

「・・・・・・・・・・・」

「才なき身でありながらも、魔力をあれだけ練り上げることができるとは・・・・・・・・・驚きましたよ。」

「・・・・・・・・・・・」

「大人しくしていれば、無駄な時間を過ごす必要もありませんでした・・・・・・・・・ほんとうに、可哀想です。」

「・・・・・・・・・・・」

「魔法使いくんは今頃、私の生み出した氷人形と戦っていることでしょう・・・・・・・・・が、もう勝負は見えていますね。」

「・・・・・・・・・・・」

「私の氷人形が、彼の生首を持って帰っ・・・・・・・・・」

「おい。」

「・・・・・・・・・・・・・・はい。なんでしょう?」

シンは、心底相手を馬鹿にしたような口調で、次の言葉を言い放った。

「お前、なんか勘違いしてねぇか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ?」

グラストの声音に怒気がこもる。

「ユウはな、才能とか凡人とか、つまらない言葉が似合うような奴じゃねぇよ。」

自分のことのように誇らしげに、シンは淡々と言葉を紡いでいく。

「いろんな魔法が使えるだけじゃない。」

「俺が腐って、なにもかも投げ出したくなった時に。」

「あいつはいつも、一番欲しい言葉をくれる。」

「俺の隣で、俺をやる気にさせてくれる。」

「そんな奴なんだ。」

「だから、負けるわけがない。」

言い終えた直後。