【前回の記事を読む】詩集「星間通信」より3篇

泥の絵本

夜9時

時計仕掛けの日課が終わる

エレベーターを降り

凍てついた夜景のなかへ降りていく

ポツンと街角の隅で彳んでいる

小さな花屋に

立ち寄る

僕も

花屋の男も夜生まれの

レアリストなのだろう

―――

ここでは

泥の絵本が

読めるのです、と

顎鬚を短く生やした

ふとった男は囁く

例えば

これなぞ

どうでしょう

《太陽王》

―――

とつぜん

森からさ迷い出た

木ぐつを履いた小人達が

くろい斧で地平線を絶ち切った

「なぜ

おまえらは

夢見る大地を

目覚めさせてしまったのだ?

もう

ここには戻れない

ここから永久に追放されるのだ」

瞋った太陽王は

真上で止ったまま!

光の洪水!

小人達は

まっくらい

湿った段ボール函のなかへ

逃亡していく

―――

おそろしい出来事が連続する

そんな生き方しかできない

泥にまみれた

むてっぽうな

あの小人達と

僕が

次に遇うのは

絵本の最後のページが終わった

ずっと後のことだ

僕は

小さな血の噴水

ポインセチア

1鉢買って

人影が迷える音符のように漂っている

夜の巷間へ

出た