第三楽章 ときを超えて

Ⅱ 日本に生まれて

結婚はしたものの、アヤは結婚指輪の違和感を強烈に感じていました。新婚旅行から戻るとアヤは、左手の薬指にはめていた指輪を外してしまったのです。この時点で、すでに未来を暗示していたのかもしれません。育った環境が、まったく違っていたふたり。価値観においても、ふたりの間にはかなり隔たりがあったようです。違うからこそ、惹かれ合ってしまう、無意識的に自分にないものを求めてしまうのは、仕方がなかったといえるでしょうか。


子どもが生まれ、アヤは専業主婦となり子育てに向き合う日々となりました。当初は太蔵に対して気にならなかったことが、少しずつ、少しずつ、よからぬ方向へズレ始めていきました。出産を機に仕事を辞めたアヤは、あまりにも平和すぎる日常に、物足りなさを感じた時期もあったようですが、子どもが増えたら、時間に追われてそれどころではなくなっていました。けれども、夫婦としての関係性に亀裂が深くなり、家庭内別居状態へと陥ります。何度話し合っても、ふたりの平行線が縮まることはありませんでした。


下の子が3 歳になるのを待って仕事に復帰したアヤは、太蔵とのことで精神的ストレスが強くなる一方で、カラダの異変に気づきます。それまで体感したことがないくらいの激痛が関節に出るようになりました。これって、もしかして自己免疫疾患じゃないのかな? 痛みが出る前に、朝方特有の前駆症状を体験していました。

そのことをアヤは認めたくなかったし、不安が募るばかりの日々。けれども、仕事と子育てと家事に追われる日々のなか、この状況で病気になるなんて、ゼッタイに困る。そう思ったアヤは、医療に頼らない方法を自分で試すことにしました。薬も検査を受けることもイヤだったのです。不思議なことに、自己流の方法でも痛みは徐々に軽減しはじめ、いつのまにか良くなっていました。