■それぞれに満たされる時を重ねて

史香は、パン屋でのアルバイトを続けながら、経理の道に進む夢を実現するために、弛まぬ努力を続けている。

「自分の人生は、自分にしか生きられないんだよ。誰も代われるはずのないもの」

「何か見つけられたかい?」

「何だっていい、見つけなよ、見続けられる夢を」

パン屋の主人の言葉で、自分を立て直すことができた史香は、夢を実現することが、何よりの恩返しだと今日も思うのである。

妹の華歩は、早々と人生の目的を見つけていた。法で人を裁くのではなく、法で人を守りたい。そのために弁護士をめざすという華歩は、明確な夢の実現のために、猛勉強の日々を送っている。

佑輔は、出入国管理庁の職務を全うした後、企業の相談役として第二の人生を歩み始めている。社長から兄のように慕われることで、〈仕事一筋に生きてきたことが、報われるようだなあ〉と、佑輔は静かに思えるようになっていた。

仁美は、社会との接点を求めて、デパートでのアルバイトを始めていた。職場の同僚やお客様と心が通ったと思えた瞬間の喜びは、これからの自分の人生に、欠かせないものだと思えるのであった。

仁美は、4枚の写真を見ている。辛いからではない。

辛い時を乗り越えて、それぞれが自分の夢、居場所を見つけて歩み始めたことを、報告したいからである。〈ありがとう、今が一番幸せだと思えるの〉と。

もうすぐ夜あけを迎える空を見上げながら、仁美の心は、穏やかに満たされるのであった。