六.計画発表

根釧原野も五月中旬にもなると、カシワの芽も開き始め、本格的に新緑の季節が始まる。チシマザクラも新緑になると同時に、いっせいに開花する。海霧の季節が始まる前の半月ほどは、よく晴れた日が続く。そんなよく晴れて南風に乗って積雲がいくつも漂っているある日、全校生徒が体育館に集結し、一日かけてプロジェクト研究の計画発表が行われた。

司会は、家庭クラブの生活科四年の吉崎である。生活科三年の三木は計時を担当している。一発表の持ち時間は十五分だ。   

「本日、座長を務めさせていただきます、生活科四年の吉崎です。会場の皆さん、スムーズな運営への協力をお願いします」

まずは、酪農科四年の森本と三年の石崎による発表である。石崎がパソコンでパワーポイントを操作して、森本が口頭説明を行う。パワーポイントのスライドは、石崎が作ったものだ。

「われわれ酪農家が、生活を改善していくためには、農業所得の向上が必要です。農業所得を向上させるためには、何よりも農業粗収益を向上させる必要があります……農業粗収益を増やすためには、生産乳量を増やす必要があります」

ここまでしゃべると、森本は会場を見回す。酪農科の生徒たちの目が真剣になっているのを感じる。

「生産乳量を増加させる方法は二つ考えられます。一つは乳牛一頭あたりの個体乳量を増加させること。そしてもう一つは乳牛の飼養頭数を増やすことです……個体乳量を増やすにも、飼養頭数を増やすにも、良質な餌を増やす必要があります」

「牛は草食動物ですから、良質な草をたくさん作る必要がある、ということになります。そして、良質な草をたくさん作る方法は、一つだけあります」

森本は、特に酪農科の生徒たちに向かって、決然と言う。

「それが、草地の完全更新です」

「除草剤で、雑草も含めていったんすべての草を枯らす。そして石灰をしっかりと撒く。プラウとロータリーで耕し整地をして、いったん一カ月ほど置いておく。また雑草が生えてくるので除草剤をしっかりかける……その上で、牧草の種と化学肥料をしっかり散布する。こうすれば、牧草が主体の良質な草地になり、乳量が増加し、牛にとってもいい草になるはずです」

「われわれは、このプロジェクトを一年かけて行う予定です」

聞いていた酪農科三年の内燃は、森本と石崎の熱心さに感心しながらも、半ばあきれていた。

(かけたコストに対して、どれぐらいもうけがあるか、本当に考えているんかい)

(それに、草地更新している間は草が取れないってことだぜ。どうするんだ!?)

そんなことを内燃が心の中でつぶやいていると,座長の吉崎がアナウンスをかけた。

「ただいまの発表にご質問はありますか?」

早速、酪農科四年生と三年生が次々と手を挙げて発言する。どの発言も森本や石崎の計画発表をたたえる発言だった。誰かが発言するたびに、酪農科四年生と三年生は大きな拍手を発表した二人に送った。この時点で酪農科は、森本や石崎の研究計画を中心に流れていきそうな雰囲気だった。ところが次の計画発表で、この雰囲気が少し変化を見せ始めた。