【前回の記事を読む】「やっちまった…」怒りに飲まれ、口答えする妻の頭に一撃殴打

違和感

ついにその日が来た!

布石運命というのは兎にも角にも不思議なもので、先の読めない人生にも、ところどころにちゃんと布石が置いてある。まるで導くかのように。夫婦の関係が軋み始めた頃、トシカツは享子を困らせるつもりで

「家を出る!」

と言った。享子は

「できもしないくせに」

と鼻にも掛けない。もうこの頃になると享子にとってトシカツなんてどうでもいい存在になっていた。面倒くさい同居人ぐらいにしか思われていない。トシカツも足掻くが、暖簾に腕押し。やること為すこと全てが一人相撲。

そうなるとトシカツも意地になって、不動産屋に行ってアパートの契約をしてきた。本物の契約書を見せたいがために。しかし糠に釘だ。もともとトシカツには家を出る度胸も勇気も根性もない。大袈裟に見せて享子の気を引きたいだけの作戦だったのだけど、運命のいたずらか非常事態が発生してしまった。

改めて不動産屋に連絡をとってみるとまだ契約は生きている。こうなることを予想していたわけじゃないが予感があったのか? 布石がつながった。契約書を見ると5月15日に引き渡しとなっていた。

運命の不思議を感じるのだが、しかしこの別居が完全に二人の間に溝を、いや大きな川を、いや大河を作ってしまったのだ。そして、その大河が氾濫して、大洪水の登り竜となって、大暴れすることに、この時トシカツは気付きもしなかっただろう。ここから想像もできない運命が待っているのだから怖い話である。