三十四 

クリスマス・イヴ。今年もまた一人で過ごしている。毎年毎年修作はこの季節を恋人なる者と過ごしたことがない。長続きしたことがなかった。もうこの年齢になれば、それがどうした、という気持ちがないわけではないが、生涯一人きりでこの季節を過ごしているというのはかなり稀有な存在ではないか。

変人といえばいえなくもない。どこかで歯車が狂ったように、愛とは縁のうすい生涯となった。追究する、発見する、日々、考える。今日はできたか? 今日もできたか? 生涯、追究と発見のくりかえし。

才能ではなくて、人格。才能より大事なものは、人格。これまでにない作品が今日出来た。追究、探究、は実り、新たな世界の発見につながる。

クリスマス・イヴに恋人と過ごす時は得られないかわりに、修作はアトリエに来て、未知の地平にいどむことができた。素晴らしいではないか。感謝、感激ではないか。惨めさなど、そこにはみじんもない。ただ神々しい創造の時があるだけである。

次の発見がまた楽しみである。これ以上の生きている醍醐味があるだろうか。ない。最高峰である。行け。進め。輝け。信じろ。信じる。世界の真理、人間の真理を探していくことが、大切なこと。真理に近づくことは、作品が不変に近づくことである。永遠の向こう側。無限の彼方。作品の向かうべき姿。残るのは作品だけでいいのだ。

海外の発展途上国に赴き、子供たちと創作する。日本からの脱出。新しい年の目標とする。元号も新しく変わるらしい。新元号元年。彼は子供たちと創作している。

準備。身軽になる。ボストンバッグ一つで世界を移動できるように、ものを持たない。身一つでどこへでも出かけられるような軽さ。しがらみも物も増えれば増えるほど、重くなる。

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