【前回の記事を読む】アメリカでのホームステイで実感した「平和な世界を作るために大切なこと」

がんばれ、新人添乗員

谷山たちシカゴへ

六時半前にはメンバーが集まってきた。

「カリフォルニア組は右、テキサス組は左に座ってくださいね」

全員が座ったところで松井が挨拶をした。

「みなさん、こんばんは。今日は、カリフォルニア組とテキサス組の初めての顔合わせの日でもあります。中には同じ県出身で知っている方がいるかもしれませんが、一応皆さんに自己紹介をしていただきたいと思います。また、のちほど何人かがアトラクションを準備してくれているそうです。もちろん飛び入りも大丈夫です。

その前に、まずは乾杯といきましょう。二十歳以上の方はのちほどアルコールを頼んでもよいですが、乾杯はジュースでお願いします。これからの旅行が皆さんにとって楽しいものでありますことを祈って、乾杯!」

「乾杯!」

前菜を食べ終わると、順に簡単な自己紹介をしていくことになった。人数が多いため、名前と出身地及び滞在先を紹介するのに留めたが、それでも結構時間がかかった。食事の中盤からは、学生たち有志の演奏などが入り和やかな交流会となった。

「僕たちは、フォークソングを演奏し歌います。ジョン・バエズ、ブラザーズ・フォーなど皆さんも知っていると思いますので、一緒に歌ってくださいね」

皆うなずき、演奏に合わせて口ずさんでいる。真知子もフォークソングブーム世代の一人として学生時代はギター片手にフォークソングを歌っていたので、皆と一緒に歌い始めた。

「次は、ジャズです。トランペットやトロンボーンで演奏します。一曲目はサッチモの『ハロー・ドーリー!』です。手拍子しながら体を揺らしてもらうとやる気倍増しますのでご協力ください」

会場は音楽に合わせて手拍子とスイングでノリノリである。支店長の松井も得意のピアノ演奏をするようだ。松井のピアノはセミプロ級で素晴らしいと定評がある。そういえばサンフランシスコ組の添乗員谷山は、学生時代グリークラブの一員としてアメリカ公演に来た経験があると聞いている。

「谷山さん、グリークラブで歌ってらっしゃったのですから一曲歌いませんか」

「何言ってんだよ。グリークラブは男声合唱団だよ。一人で歌う声楽家ではないから無理に決まっているじゃないか」

何にも知らないんだなという顔つきであしらわれてしまった。

そのあとも学生たちは次々と舞台に上がり、演奏や手品などが続いた。

添乗はまだ始まったばかりだが、真知子は明日からの毎日が何とかやっていけそうだと思えた。

翌日は市内観光。シカゴは、映画でもよく出てくる街であり、日本人にも名前はよく知られている。アメリカの中央部に位置し、商業の中心でもある。

高層ビルも少しずつ建てられており、古い街並みの中にニョキニョキと首を出している。中でも有名なのは、トウモロコシの粒のように窓が並ぶ円筒形の建物で通称コーンコブ(トウモロコシの穂先)と呼ばれていて、絵葉書になるほど人気がある。

市内には広い公園があり、人々が木陰に座り、子どもたちを遊ばせているのもゆとりを感じさせる。また、東京の山手線のようなループという環状線が走っていて移動するのにもとても便利である。ただ、環状線の内側は比較的安全であり多くの観光客でにぎわっているが、外側には車の窓を決して開けて走ってはいけないといわれる危険な地域もあるので注意が必要である。