第二 雑歌の章その二  

()(がれ)

図書室から戻った()(づき)梨花(りか)は教室の窓際にある自分の席に向かう。初めて借りた本を自分のノートと一緒に鞄の中にしまい帰り支度をしながら窓越しに目を()ると、まもなく落ちそうな春日に照らされた(ゆう)(くれない)に気持ちは和み心も落ちついた。いつもしているように校庭の端にある花壇に視線を動かしていく……ゆっくりと。

高校に入ってから図書室で本を読んでこの時間に教室に戻り、花壇に佇むお気に入りの橘先生を眺めるのを決まり事にしていた。隣の一年E組のクラス担任をする橘先生を入学式で見た梨花は母親や自分と同じ雰囲気をその先生に感じた。校内で橘先生の姿を探してはその物腰や立ち振る舞いを観察し、先生を手本に楚々(そそ)とした(しと)やかな女性になりたいと憧れた。

夕陽の当たるこの時間にここから見る橘先生の咲いた花壇はより一層美しさを増すのでそれを楽しみにしていたが……今日は違う。憧れの先生だけではなく先生に寄り添う一人の男子生徒がその場所にいる。先生を見たいという意思とは別に自分の瞳は男子生徒の姿を追ってしまう。

普段なら花壇に男子生徒がいるだけで違和感を抱いてしまうはずなのに、その男子生徒は先生とともに花壇の一部を構成し、そこに馴染(なじ)んですっかり溶け込んでしまっている。花と橘先生が作り出す三角構図の大切な一辺を彼がしっかりと(にな)っている。アニメのワンシーンを思わせる主人公と恋人が愛を語りあう美しい構図が花壇にはある。

先生と同じ背丈の男子生徒は恋人同士のようにお互い見つめ合い、色鮮やかな花に周りを取り囲まれ、風も二人の髪を優しく撫でてその場所を幸せが包んでいる。それは自分が今まで見た中で一番美しい景色だと思えてしまう。「なんて素敵な光景なの」と心から言の葉が(こぼ)れてうっとり見()れてしまい、自分もその気色(けしき)に入りたいと思った。

もっと近くで男子生徒をしっかり確認したくなり鞄を持ち急いで教室を飛び出して行った。