北満のシリウス

夜空を見上げると、オリオン座の東隣に見えるおおいぬ座。そのおおいぬ座で最も明るく輝くアルファ星が、シリウス。シリウスのことを中国では、天狼星と呼ぶ。つまり、シリウスは、天にきらめく狼なのだ。

地上の平和が地獄の炎で焼き尽くされようとする時、聖なる天の狼「シリウス」が、天空から舞い降りて来る。「シリウス」は、絶望の暗闇に包まれた暗黒の世界を貫く一筋の希望の光となり、やがて、それは、世界をも救う巨大な奇跡を生んでゆく……。

中国東北部に広がる広大な大地。この地域は、かつて、満州と呼ばれていた。果てしなく広がる荒野。北満にはタイガと呼ばれる広大な針葉樹林帯が鬱蒼と広がり、そこでは、ツングース系の人々が、昔ながらの狩猟生活をしていた。

北の国境には、シベリア地方を貫く巨大なアムール河が流れる。狼やアムール虎も生息し、代々、虎を狩ることで生計を立てているロシア系の住人たちもこのあたりにいたという。

朝鮮半島との境界の白頭山頂上から、アムール河まで、タイガを貫いて、北満の大地をゆったりと流れるのが雄大なスンガリー川。そのスンガリー川が流れる途中に、東洋のパリとも言われた美しい国際都市があり、川は、街の人々の生活をいつも優しく見守っていた。

川は、街の商業地区の北端を流れているのだが、川の真ん中の「太陽(たいよう)(とう)」と呼ばれる島から眺めるその街の夕焼けは、常に金色(こんじき)の輝きを放っていた……。