『変化するコミュニティ』

久禮市の中心部に建つ高層建築物、SPH本部。それは、ニューヨーク市内によくある様な大きな高層ビル群の一つで、上階には大きな「SPH」という銀色に輝くロゴが飾ってある。その地下にある教室一つ分くらいの研究室に、一人の少年がいた。

その少年は研究者らしく白衣を羽織り丸椅子に腰を下ろしながら、黙々と実験台の上にある幾つかの試験管に試薬を投与していた。その試験管の他にも、少年が操作する実験台には実験データの書類やまるで高度な実験をするかのように、様々な実験器具が並べられていた。そんな中、研究室に先程の憑依生命体を捕縛した戦闘員の一人が入ってくる。

「キッサ君」

少年の名前を呼びながら研究室の扉を開ける彼は、そのままズカズカと部屋に入り込み少年まであと数メートルと言った所で立ち止まる。

「……どうしたんですか? 俺は忙しい。いつも通りなら、いりませんよ」

近寄って来た彼に気づいて、少年は鬱陶しく言い返した。

「憑依生命体の捕獲中に、未確認の憑依生命体を確認した。詳細を報告しにきたよ」

少年のぶしつけな発言にもめげずに口を動かす。そんな彼の姿勢に少年は渋々手を止め、両手で持っていた試験管をひとまず試験管立てに置く。それを待っていたかのように彼は手に持ったバインダーをそのまま手渡し、少年はそれに挟まれた書類に目を通す。初めは実験の邪魔をされ嫌悪感を表していた少年の瞳は、次の瞬間、その書類に目を通した事で、一瞬でろ過され鮮やかになった。

「遂に覚醒なるか。せせらぎさん、あなたのおかげですね」