あなたがいたから

脳腫瘍になって

長い時間が過ぎ、彼が運ばれたのは、救命救急の二階だった。

一命は救われたものの、救命救急の二階で、色々なチューブに繋がれた彼の姿があった。「ガチャガチャ」「スウースウー」と、人口呼吸器の音だろうか、静かな中に機械音とスタッフの方達の声しか聞こえない。一命を取りとめた人達の、生と死の間の治療室なのだ。皆色々なチューブが、口や鼻,又は身体に入り、必死に生きようとしている。そんな場所なのである。

厳重に外からのばい菌をシャットアウトしていて、入口からマスク、ビニールのカッパの着用、手の消毒が徹底されている。まさに異空間の様だ。今は病院も変わってしまったが、救命救急をやっていた息子は、こんな所で頑張っていたのかと感心した。朝まで元気だった彼が、何故こんな状態に急になるのか、私にはまったく現状が理解できなかった。

彼の状態はみるみる良くなり、数日後には、脳外科の一般病棟に移る事ができた。面会に行き、

「大丈夫?」

と声をかけると、

「大丈夫だよ」

と返ってきた。

「具合が悪くなった日の事は覚えている?」

と聞くと、

「途中からは、全然覚えていない」

と答えた。

「でも良かったね、助かって」

と言うと

「そうだね」

と言った。もちろん助かった事が嬉しかったが、声を出して答えてくれた事が、何よりも私には嬉しかった事を覚えている。一週間後位には手術。手術前日には、歩いて当日のシミュレーションも行う事ができる程だった。