EGAMI零族

カイゼルは、甲板に来たラムカにふいに話しかけた。

「俺……、たまに零族になる前は何していたんだろうって考えるんだ。そんな事考えても思い出せやしないのにな……、おかしいよな。でも……、いつか本当の自由を手にしたいんだ……。主人なんか無しで何処へでも行き、何でも出来るような……」

ラムカはカイゼルを見詰め言った。

「きっと出来るよ……。そんな日が来るよ。自分さえ諦めなければきっと……」

「だといいがな……」

そう言うとカイゼルは笑いながら甲板から下の部屋へと向かった。階段を下がると、トラゴスが立ち聞きしていたのか、彼の目には涙が溢れ出ていた。カイゼルが来ると顔を背け奥へと消えた。

数日間、周辺の島々に立ち寄りながら『記憶の森』の情報を集めたが、有力な情報は得られなかった。そもそもこの辺りの小さな島々では、『記憶の森』を知る者さえ居なかった。鶏のフランゴは冷静で物静かな性格だが、そんな彼が口を開く。

「零族狩りに狙われやすくなるリスクが高くなるが、大陸島へ行き情報を集めるべきだ。たとえ零族狩りに狙われたとしても、今は主人のラムカが居る」

「確かに……」

皆が納得した後、カイゼルは、魚船を南へ向け航路を進めた。エガミには、大陸島が二つ在り、西には水の国と言う雲海に囲まれた大陸島と、大きな三日月形をした大陸島の北に太陽の国、南には地の国の二国が隣接している事をカイゼルはラムカに説明した。

魚船を南に向け、数日経った頃、数隻の船に追われ囲まれた。それは零族狩りが乗るサンマ船でカイゼル達を狙い現れたようだった。しかし、主人のラムカが甲板に出ると零族狩りは諦めて去って行った。

どうやら主人がいれば大丈夫だと言う彼らの話は本当らしい。

しかし喜ぶのもつかの間、この界わいの雲海を治める零族狩りの長、ラ・エンカの縄張りに足を踏み入れていたらしく、サメの軍艦がラムカ達の魚船の前に姿を現し、進路を塞いだ。

「あれはラ・エンカの軍艦だ。どうやらさっきのサンマ船の奴らが密告したようだ」

カイゼルはそう甲板に出て来たラムカに言った。ゆっくり近寄って来るサメ軍艦の奥に、先程現れたサンマ船が見えた。

 

サメ軍艦の放つ異様な雰囲気に気付いた魚船は縄張りから抜け出そうとし全速力を出しユーターンした。だが泳ぎの速いサメ軍艦にあっと言う間に周囲を囲まれる。正面の一隻のサメ軍艦の甲板に、魚の仮面を被った零族狩りの長ラ・エンカが姿を現し高々腕を天に上げた。

すると多くの船員が何処からともなく現れ、ラムカ達の魚船に乗り込んで来る。カイゼル達は、抵抗する間もなく捕らわれていく。ラムカは、二人の船員に両腕を押さえられたが、それでも抵抗しもがくと、背後にいた船員に後頭部を叩かれ気絶した。