第一章 新しい家族

引っ越し

僕と由美は、朝、千恵姉ちゃんのアパートから僕たちの家に送ってもらって、昼間はお父さんたちのお骨と一緒に過ごした。僕たちの担任の先生が揃って「あゆみ」と夏休みの宿題を届けてくれたり、近所のおじさんやおばさんがお線香を上げに来てくれたり、毎日のようにお菓子やアイスをもらった。

午後には同じクラスの(ゆう)ちゃんと光君がほとんど毎日遊びに来た。由美の友達も来たけど、由美は僕の友達と一緒にいる方が多かった。僕たちはほとんど外に出ないでテレビを見たりゲームをしたり、宿題も一緒にやった。お骨のそばから離れてはいけないような気がしていたから出かけられなかったし、外で近所の人に話しかけられるのが嫌だった。

「お兄ちゃんちょっと来て、お母さんの匂いがする」

誰も来ないから二段ベッドに転がって漫画を見ていたとき、由美が隣の部屋から呼んだ。由美はお母さんとお父さんの洋服ダンスに顔を突っ込んでいた。由美が僕の背中を押して顔を中に入れさせた。

右側にお母さんの服、左にお父さんがたまに着た背広やシャツが少し掛かっていた。顔を突っ込むとお母さんの服が顔に触れてお母さんの匂いが残っていた。由美は引き出しを次々に開けて、「ここにも」とか「お父さんの匂い」だとか、自分の発見にはしゃいでいた。僕は「ほんとだ」とだけ言ってベッドに戻った。泣きたくなった。

隣のおばさんが階段の下から「ヒロちゃーん、由美ちゃーん、ご飯よー」と呼んだ。由美がお母さんのスカーフをつかんだまま階段を駆け下りて僕が続いた。テーブルには冷やし中華が置いてあった。由美が「お母さんの匂いがするんだあ」と嬉しそうにスカーフを見せると、おばさんが小さな声で「そう、よかったね」と言ってから後ろを向いてしまった。

隣のおばさんは毎日昼ご飯を用意してくれた。持ってきてくれることが多かったけど、僕たちを呼びに来て、「隣にいます」の張り紙をしておばさん家で食べさせてくれることもあった。千恵姉ちゃんは弁当を用意しようとしたけど、おばさんがどうしても自分に昼ご飯の面倒を見させてほしいと言ってくれた。