迷いながら揺れ動く女のこころ

側から結衣が「独身者は若く見えるよね。子供の世話なんかで生活の疲れが表面に出てこないから」と口を挟んだ。

花帆が「美代子は家政婦さんが入浴介助することに嫉妬しないの?」

「全然」と言ってから先日の入浴介助の失敗談を面白可笑しく話した。

「もう一件、美月さんの触覚に触れたことがあったの?」

「その他に何があったの」結衣が興味深く身を乗り出してきた。

美代子はゆっくりした口調で、「スペイン旅行の話をしていた時、『食べ物の話になり、“パエリア”がすごく美味しかった。特に大きなフライパンで作ったおこげの味が全ての魚介類の味が凝縮したようで最高だった』と話した時、主人に『美代子の味覚が衰えてない間に作ってよ』と言われ承諾したの。それが美月さんを刺激したみたいね」

「そうか、美月さんの仕事の領域まで美代子が侵食したのね。家政婦さんとしては少し面白くないね」

「でもその時は、そんなこと微塵も脳裏を横切らなかったわ。私鈍感なの」と言いながら少しの間を置いて「嫉妬するのは家政婦さんの方だったことが分かったの」

「どうして分かったの? 何か言われた?」

「私の入浴介助の失敗があった数日後、深夜主人の部屋から話し声がかすかに聞こえたことがあったの。それから主人と家政婦さんの二人の動向を観察していて分かったの」

花帆と結衣もこれ以上立ち入った話を美代子から聞き出すのは野暮なことだと思い「男女の仲か」とため息を吐いて、しばらく静寂の時間が流れた。