プロローグ

思い立ったが吉日。

親父がよく言っていた。だからオレは地元の大学を出ると迷わずに上京。蘭がパパっ子のように、オレもパパっ子だったように思う。親父の言うことだけは素直に聞いたものだ。

「便りがないのは元気な証拠。電話代や交通費もバカにならないし無理して帰ってこなくていいぞ」と親父から言われたこともあり、気づいたら三十年も経っていたのである。

志を立てるのに遅すぎるということはない。これは、イギリスで首相を務めたことのある政治家の名言で、親父の座右の銘である。小さい頃から口を酸っぱくして言われたせいか、オレの座右の銘にもなっている。この言葉のおかげでオレは東京で踏ん張ることができた。

アメリカで生活することにためらいはなかった。けれど、いろいろと思うことがあり、疲れてしまった。故郷に帰り、親孝行しようと思った。だが――。

突然、親父はジャワ島に移住した。従順なおふくろは当然のように親父についていった。二人合わせて御年百七十歳。行動力ありすぎ! その事実を知ったのが半年前。奇しくも帰国しようと決意したときである。

にもかかわらず、オレがすぐに日本に戻ってこなかったのはタイミングを見計らっていたからだ。仕方ない。田舎で娘と二人のんびり楽しく暮らそう。親孝行はまたの機会でいいだろう。そんなことを考えながら生家に到着すると、更地になっていた。

「なんだかな?」

蘭が【売地】と書かれた立て看板を指差すと、タイミングよくスマホのメール着信音が鳴った。画面を開く。親父からだった。

【土地、売ったから。移住費の足しに。言い忘れてた。あばよ】

あばよ?

どういう意味だよ! 柳沢(やなぎさわ)(けい)()じゃあるまいし。ところで、「あばよ」の名言は、ねるねん紅鮫団で誕生したんだっけ……おっと、話が脱線してしまった。

細かいことが気になってしまうのは、オレの悪い癖。

あばよの意味はともかく謝罪の言葉がない。一人息子が実家に帰ることを親父は知っていたはずなのに……オレは呆然と立ち尽くした。溜息が出る。

「なんだかなー」