第一章  ギャッパーたち

(一)畑山耕作

なお、相方の加藤も、一般企業ではあるが、サラリーマンになった。そして、二人は自然と芸人をあきらめて、仕事に就き社会人となったのである。ところが、畑山は、あまりに真面目でかつ危険な職場のためにストレスがたまり、かつての緩い雰囲気で何でも喋れるお笑いが懐かしくなっていた。

一方、相方の加藤も、畑山とのお笑いを懐かしんでいた。最近は、どこの会社でも忘年会などで一芸を披露させられることが多くなっている。大抵は、今人気のあるお笑い芸人か、テレビドラマのまねをするのであるが、どれもしょせん素人芸で、畑山とやっていた漫才が面白かったと改めて思ったのである。

そうして、畑山と加藤は、就職してその一年後、同窓会で久しぶりに顔を合わせた。加藤が、

「おう、畑山やないかいな。まだ生きとったんかい」

と言うと、畑山は、

「まだ、拳銃で人を撃っとらんからな。せっかく警察官になったんやから、お前を撃つまで辞められへん」

と言いながら、拳銃で加藤を撃つまねをした。

「何でや。お前に撃たれるようなことしとらへんで」

「とにかく、人相の悪い奴捕まえとけば、成績になんねん」

「アホ。お前に捕まるようなそんなアホな奴は、そもそも悪いことなんてできへんやろ。大体が、何で俺が人相悪いねん。俺はイケメンで通ってんやで」

「どこがイケメンや。お前がイケメンちゅうなら、ゾンビもみんなイケメンちゅうことになるやないか。そしたら、若い子がみんな食われてしまうで。わしら、誰とつきあえばええねん。相手、ばあさんしかおらへんくなるやないか」

「なら、ばあさん、逮捕しとけ」

「ばあさん捕まえるくらいなら、ゾンビになった若い子、捕まえる」

「若い子ならゾンビでもええんかい」

「かわいい鹿とちゃうんかい」

「そりゃ、バン〇や」

「ほな、かわいいゾウ」

「そりゃ、ダ〇ボ。ええかげんにせえ」

「とにかく、ゾンビでも何でもええ、ばあさんよりはええ」

「やっぱり、アホや」

二人が話し出すと、その会話は自然とボケと突っ込みの形になっていた。周りの同窓生たちが笑うのを見て、二人にまた以前のわくわくするような熱い感情が沸き立ってきた。お互いの心に残った不完全燃焼のような感情を抑えきれず、どちらからともなく、漫才の復活という流れとなった。

その一年ほど前、畑山は警察官となりまず警察学校に入った。そこでは、勉強に、訓練にと忙しかったものの、その中でもお笑いのネタになりそうなことを見つけてはメモしていた。やはり、お笑いを一旦はあきらめたものの、未練があった。そうなれば、もともと根はまじめなので、ついついお笑いのネタを探してしまうのであった。