妙に光が白っぽく、ぼやける社の(きざはし)の前で、タマはきちんと猫座りをすると、こちらをすいっと見据えた。

「俺も随分長く生きてきたけど、生まれ変わる前に俺自身で昔の事を話しておきたいという気持ちがあるにはあったんだ」

タマはそう言い、ずぃーと私の傍へ近づいて来ると、見上げながら話し始めた。

「秦の始皇帝の命を受けて(じょ)(ふく)は……」

「ち、ちょっと待った! 何で始皇帝?」

「卑弥呼に関係してくるんだ。黙って聞け」

ああっ、そういうことですか、失礼しました――

思わずペコリと頭を下げる。

「徐福は始皇帝の命を受け不老不死の妙薬を見つけるために三神山を目指し、倭と言われていたその頃の日本にやって来る。培っていた知識と新しい土地での固有の動植物を手に入れたことにより、とうとう不老不死の在り方を体得した彼は、その頃勢力を伸ばしつつあった邪馬台国の卑弥呼と出会う事になる。

シャーマン的なすぐに陶酔状態に陥る卑弥呼は神託と言って神の言葉を告げることによって、多くの者たちを引きつけていた……

祭事の時は、ゾロアスター教でも使われていたと言う、ハオマ酒のような物が使われていた。

そんな卑弥呼が、徐福を呼び寄せ、既にこの国の言葉を話せるようになっていた彼と、様々な話を交わす。

稲作など大陸で行われている農耕などについて教えを乞ううちに親交を深めてゆくが、不老不死については決して話す事はなかった。それは自身が体現してきた多くの親しき人達の死を見送って来た悲しみのせいだ。

そんな中、卑弥呼は病に倒れる。薄れゆく意識の中、片時も傍らを離れることの無かった可愛がっていた猫に卑弥呼の意識は移って行く。……事切れた時、側に居た諸々の者たちの中で徐福に猫は話し掛ける。(徐福よ、我は卑弥呼だ。私の話を聞け)そう徐福の頭の中に語りかけた」

【前回の記事を読む】大体は八幡社で寝て…「まあー俺はお守り猫だからな」お守り猫って一体…!?