第二章 招魂と入れ替わり

「久しぶり。試合、残念だったね。見に行かなかったけど頑張ったみたいじゃない」

「おーよ。やれるだけは頑張った。思い残すことがないとは言えないけど、後は後輩に任せるしかない……ところで蔵人はどこだ」

「社に入っているよ。……もうすぐ出てきたら、また魔法陣みたいな絵図を描くと思うから、今度は手伝ってよ。あれ描くの結構大変なんだから」と私は前に苦労した事を思い出しながら言ってやる。

「ああーこの前地面に描いてあったあれの事。あの時は、興奮して片付け手伝わなくってゴメン。……それであそこにあった物を全部持って来ているんだろ」と聞いてくる致嗣に見せてやる。

「ここにあるよ」と私はビニールバケツに入った生石灰(中に混ざっていた葉っぱや小枝は、いちいち時間をかけて取り除いた)そして一升瓶に入れた毒薬のような煮出し汁。

致嗣はそのどす黒い汁を見ると、「それ、飲むんじゃないよな!?」と確かめずにはおれないという気持ちらしく、怖じ気づいた声で聞いてくる。

怯えさせてやれたという、ちょっとした優越感に浸りながら、答えてやる。

「当たり前じゃないの、こんなの飲んだら体に悪いと思うわ」

自分も初めは飲むんじゃないかと心配したことには触れない。そんなことを話しながらタマを待っていると、暫くして、出て来たタマは少し雰囲気が違っているように見えた。

猫なのにオーラがあると言うか、前もそうだったけど妙に威厳があるように見えるんだよな。なすびを食べている時は、意地汚いだけだけど、いや待て、あれはあれで、ちょっと怖かったなぁ……などと考えていると、「そろそろ始めようか。それじゃぁ洋子、この前のように絵図を描いてくれ」とタマ。

「忘れちゃったから、また教えて」と私。指示された通り、今度は致嗣にも手伝わせて完成させた。

それからは速かった。致嗣が絵図の中心に入り、漢方液を図の上をなぞるように垂らしていくと、もうもうと白い煙が上がる、タマは何やらお経みたいな言葉を唱えている。